酸化物の複合構造を活用したニューロン型接合素子が、AI処理に必要なエネルギーの消費量を削減する
Published : 2021.05.14 / DOI : 10.1080/14686996.2021.1911277
人間の脳による情報処理や記憶を模倣する、ニューロン型接合素子の技術が向上しつつある。
中国科学院のFei ZhugeらはScience and Technology of Advanced Materialsに発表したHybrid oxide brain-inspired neuromorphic devices for hardware implementation of artificial intelligenceにおいて、「ニューロモルフィック」コンピュータの核心部分である「メモリスタ素子」の設計における最新の開発状況についてレビューを行った。
通常のコンピュータは、以前に学習した情報を呼び出してAI予測を行う。その際、メモリと情報処理装置との間で大量のデータを転送する必要があるため、非常に多くのエネルギーと時間を要する。この問題を解決するために、人間の脳のように、情報処理、記憶、転送を同時に行うコンピュータハードウェアが開発されてきた。
これら「ニューロモルフィック」コンピュータの電子回路には、シナプスと呼ばれるニューロン間の接合部に似たメモリスタ素子が含まれている。信号はある素子から別の素子へと伝達するが、これは脳のニューロンが発火して情報伝達することによく似ている。現在、科学者たちはこの素子を適切に調整し、情報伝達の信頼性をより高める方法を見つけつつある。
Zhang氏は「酸化物はメモリスタ素子で最も広く使われている材料です。しかし、その素子の安定性と信頼性は不十分であり、酸化物の複合構造がこれを効果的に改善できます」と言う。 メモリスタ素子は通常、二つの電極間に挟まれた酸化物材料からできているが、異なる2つ以上の酸化物からなる複合構造を電極間に導入することにより、より良い結果が得られつつある。電流が素子内を流れる際に、イオンが酸化物複合構造内を移動する。その移動が最終的にメモリスタ素子の抵抗値を変化させ、これにより情報処理や記憶を担うことができる。
メモリスタ素子は、電極や酸化物複合構造の化合物を調整することにより、さらに性能向上を図ることが可能である。Zhuge氏と彼のチームは現在、光により制御可能な酸化物メモリスタ素子(フォトニックメモリスタ素子)に基づく、光電子ニューロモルフィックコンピュータを開発中である。従来型のメモリスタ素子と比較して、フォトニックメモリスタ素子は動作速度が速く、エネルギー消費量が少ないことが期待される。それらは高い計算性能を備えた次世代の人工視覚システムを構築するために使用されるかもしれない。
論文情報
- 著者
- Jingrui Wang, Xia Zhuge and Fei Zhuge
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.22(2021)326.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2021.1911277