セラミックスナノ粒子が拓く2モード生体イメージング

粒子径の精密制御が高解像度の近赤外イメージングとMRIを同時に可能にする

2021.03.10掲載
ARTICLE

Published : 2021.03.10 / DOI : 10.1080/14686996.2021.1887712

近年、蛍光イメージング、核磁気共鳴イメージング(MRI)、X線トモグラフィー、ポジトロン断層法、超音波などのイメージング法が発達し、それらの2モード、ないし多モードの組み合わせも行われ、生体の生理学的な理解の急速な進歩に繋がっている。これらの中で、MRIは生体の深部組織の解析ができ、また軟組織についても高コントラスト像を得ることができることから、多モードイメージングの基本的な手法となっている。一方、近赤外線(NIR)の生体組織による吸収・散乱は小さく、そのため組織内部数cmの深さまで観察できることから、分子イメージングから医療診断の分野にまで幅広く使われつつある。この両者のイメージングを向上させることのできる2モードセラミックスナノ粒子の開発は、例えば、がん病巣のMRIによる手術前の可視化と、NIRによる手術中のライブ観察を可能にするであろう。

Science and Technology of Advanced Materialsに、日本、東京理科大学の大久保喬平らが、量子科学技術研究機構と共同研究した論文 Size-controlled bimodal in vivo nanoprobes as near-infrared phosphors and positive contrast agents for magnetic resonance imaging は、波長1000 nmを超える近赤外(OTN-NIR)蛍光イメージングおよびMRI双方で高いS/N比を与えるように精密に粒径制御した2モードセラミックス( NaGdF4:Yb3+,Er3+)ナノ粒子 について報告している。
著者らは、NaGdF4:Yb3+,Er3+ナノ粒子の合成を段階的に行い、粒径を制御した。まず、原料となる希土類酸化物、水、トリフルオロ酢酸を混ぜ、加熱により希土類フルオロ酢酸混合物固体を作成する。この固体物をトリフルオロ酢酸ナトリウムと1-オクタデセン溶液に溶解し、溶液とし、この溶液にオレイン酸を加え、脱気、冷却することにより NaGdF4:Yb3+,Er3+ナノ粒子が得られる。粒径制御のために、このプロセスをもう一度行うが、希土類フルオロ酢酸混合物溶液に NaGdF4:Yb3+,Er3+ナノ粒子を結晶核として加える。その際、加える NaGdF4:Yb3+,Er3+ナノ粒子の量を変え、結晶成長速度を制御することにより、所望の粒径を持つナノ粒子の合成に成功している。次の段階で、オレイン酸被覆されているNaGdF4:Yb3+,Er3+ナノ粒子を配位子交換反応により、PEG基共重合体被覆 NaGdF4:Yb3+,Er3+ナノ粒子とし、最終的に直径15および45 nmのナノ粒子を得ることができている。
得られた PEG基共重合体被覆 NaGdF4:Yb3+,Er3+ナノ粒子について、サイズ・形状・相同定・化学的安定性・生体毒性などの評価が行われている。MRI造影剤の性能としては、視認性の良い、高性能な陽性造影剤であることが示されている。さらに、MRIおよびOTN-NIRイメージング実験から、いずれについても生きたマウスの高解像度血管イメージを得ることができている。また、マウスの繊維芽細胞に対する毒性実験からはナノ粒子は低濃度で使われている限り、その細胞毒性は極小であることが示されている。また、生体内での半減期は短く、急速に排出されることから医用に対して安全性は確保できることが示されている。

著者らは、今後、ナノ粒子において、常磁性イオンの分布の変化がその磁性的性質にどのような効果を及ぼすかを研究したいとしている。さらに、このナノ粒子表面を改変することで皮膚がんや座蒼を処置する「光力学的療法」に適用できないかも研究したいとしている。

図の説明:生きているマウスの尻尾部血管にナノ粒子を注入することにより、組織・血管の高画質のT1強調MRI像(左)およびOTN-NIR蛍光像(右)を得ることができる。

論文情報

著者
Kyohei Okubo, Ryuta Takeda, Shuhei Murayama, Masakazu Umezawa, Masao Kamimura, Kensuke Osada, Ichio Aoki & Kohei Soga
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.22(2021)160.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2021.1887712