固体高分子形燃料電池の効率向上を目指す

電解質ポリマー膜の構造組織化による分子配向性の向上が高いプロトン伝導性を導く

2020.02.19掲載
REVIEW ARTICLE

Published : 2020.02.14 / DOI : 10.1080/14686996.2020.1722740

電気自動車や産業用小型電源として期待される固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell; PEFC)の効率向上のために、電解質の役割をするプロトン伝導ポリマー膜の分子レベルの構造をより組織化し、分子配向性を高めることにより、膜のプロトン伝導性を向上させる研究が進展している。
近年の地球温暖化傾向を抑止するために、CO2排出を抑えた環境負荷の少ないエネルギー発生システムが求められている。それ自身の発電中にはCO2発生のない水素燃料電池への期待は大きい。水素燃料電池では水素分子がアノードでプロトンと電子に分離され、プロトンは電解質を通り、電子は外部回路を通してカソードへ送られ、カソードで酸素と結合し、水となって外部に放出される。電子の通る外部回路が電源となる。
電解質にプロトン伝導ポリマー膜が用いられるPEFCは、高い発電効率に加え、また大気汚染源となるNOxの発生もない。作動温度は80〜100°Cと低く、起動、停止が容易で、小型化が可能である、といった優れた特性を持つ。そのため、自動車などの移動用や小型コジェネレーション用電源として期待されている。

Science and Technology of Advanced Materialsに発表された、日本、北陸先端科学技術大学院大学の長尾祐樹によるレビュー論文、Progress on highly-proton conductive polymer thin films with organized structure and molecularly oriented structureは、著者自身の行ってきた、最新の研究手法を使ってのプロトン伝導ポリマー膜内の分子構造に関する研究を中心に、関係する他研究も含めて紹介し、分子構造がより組織化されることでプロトン伝導性が向上することを明らかにしている。
PEFCでは、現在、イオン性を備えたアイオノマーと呼ばれる合成ポリマーの一つであるパーフルオロスルフォン酸(Perfluorosulfonic acid)電解質膜が多く用いられている。このパーフルオロスルフォン酸電解質膜をSiO、MgO、Ptスパッター膜、Auスパッター膜などの基板上に生成すると膜は高度に配向する。この時、膜の配向性はPtないしAu膜の厚さに依存することが明らかになっている。他方、SiO、MgO基板についてはこのような依存性は認められていない。
アミノ酸ポリマーはアミドグループ間の水素結合により階層構造を持つ。著者らは、合成ポリアスパラギン酸(P-Asp)膜において、組織化された構造と異方的なプロトン伝導性との関係を調べている。P-Asp膜ではアミドグループが分子レベルで方向の揃った構造をとることを明らかにした。この構造が膜内のプロトン伝導を高めている。別種の膜であるアルキルスルフォネートポリイミド膜の場合、水を吸収してより組織化された構造をとる。これは溶媒を加えられたとき、この材料が液晶相になることに起因する。
この論文では、いずれも加湿状態でのみプロトン伝導性を示すポリマーが取り上げられている。最近、無加湿状態でもプロトン伝導性を示すポリマーの研究が進展しつつあり、関係する2〜3の論文が参照されている。
著者によれば、プロトン伝導材料でも、ペレット状にバルク作成すると、分子は配向せず、プロトン伝導チャンネルが途切れるために高いプロトン伝導性を得ることができない。一方、膜として作成すれば、分子の配向性を揃えた組織化された構造となり、高いプロトン伝導性を得ることができる。分子の配列構造とプロトン伝導機構の関係をより深く理解することが今後の研究開発のとって重要である。今後の研究として、ポリマーの分子設計や、プロトン伝導材料の液晶特性を利用した外部場を加えることによる分子配列の制御が重要である、としている。

図の説明:プロトン伝導ポリマーでは、分子の配向により、高いプロトン伝導性がえられる。

論文情報

著者
Yuki Nagao
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.21(2020)79.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2020.1722740