装着型の健康管理用モニターから人口皮膚や伸縮できる太陽電池まで拡がる応用の可能性
Published : 2019.03.21 / DOI : 10.1080/14686996.2018.1549460
伸縮、屈曲できる電子機器という新技術は今急速に発展しようとしている。そこでは次世代装着型の電子デバイスの開発も視野に入っている。今年、年初に米国、ラスベガスで開催されたCES 2019 Las Vegas(世界最大の家電・IT見本市)に中国企業が世界初の折りたためるスマホを展示、この分野の急速な発展を世界に強く印象付けた。今後、健康管理、エネルギー創出といった分野から軍事分野にいたるまで応用の可能性が拡がっていくであろう。とは言え、例えば、凹凸した表面に沿わせるために、圧迫したり、捻ったりしてもデバイスの性能を維持できることが必須で、対応できる各コンポーネントの開発はまだ大きな課題として残っている。
Science and Technology of Advanced Materialsに中国、武漢大学のWei Wuの発表したレビュー論文 Stretchable electronics: functional materials, fabrication strategies and applications は、伸縮できる電子機器各コンポーネントの最新の研究開発状況を紹介している。
伸縮できる電子機器コンポーネントの作成で特に重要なのが基本的な回路構成要素の伝導体と電極であり、これらを伸縮可能にするための方策は二通りある。一つは、例えばゴムの様な伸縮可能な材料を用いることであり、これなら大きな変形も可能になる。しかし、電気抵抗が高く、その利用には限界がある。もう一つは、革新的なデザインを用いて、非伸縮性の材料の利用を可能にするものである。例えば、シリコンの様な脆い半導体材料を引き伸ばした状態の伸縮性基板の上に成長させて、その後、基板を元の状態に戻すと、半導体膜は折りたたんだ状態になり、伸縮に対応できる様になる。他には、硬い伝導性材料をアイランド状に展開し、それらを互いに軟金属、ないし液体金属で繋ぐという方法もある。適切なメッシュ構造を作成すれば、可逆性を保ったまま非常に大きい伸長率を持たせることが可能になるし、フラクタル構造に基づく作成方法も研究されている。また日本人には馴染みのある「折り紙、切り紙」の考えに基づく折りたたみ方法も研究されている。種々の伸縮性電子コンポーネントが開発されているが、低コストであるということで、現時点では伝導体ないし電極は、銀のナノワイヤーやCNT、グラフェンで作られることが多い。
伸縮性電子機器の開発において、エネルギーソースの開発は重要で、伸縮性のエネルギー変換ないし、電池といったエネルギー貯蔵素子が必要である。太陽電池、スーパーキャパシター、そしてリチウムイオン電池、Znベース電池などが考えられている。Znベース電池は、大気中での安定性により、従来の印刷法が使え大量生産が可能になることから、最も期待されている。一方、そのエネルギー源を身近にある振動、風、人体の動きなどに依存するナノ発電器も電池に代替できるエネルギー源として研究されている。
伸縮性のトランジスター、センサー、アクチュエータなどのコンポーネントが研究されているが、温度、圧力、電気化学センサーを組み合わせ、人の皮膚に似せて、汗、涙、唾液などから信号を取り出すことのできる非侵襲性健康管理モニターを作成することができる。さらにセンサー感度を高めたスマート人口補装具とかロボットといったものも可能である。ただ、現時点ではこの様な人口皮膚の作成は大変複雑で、多大の労力を要する。他方、伸縮性、柔軟性のみならず透明性も付加した次世代の装着型電子機器の開発が、現在、大いに注目を集めている。
著者は、これら伸縮性電子デバイスはいずれも現時点では実験室内でのテストにとどまっているが、今後、市場へとそのテストの場を広げなくてはならず、そのためにはより安い材料で、しかも迅速に大量に製造できる方法を開発しなくてはならない、と指摘している。
論文情報
- 著者
- Wei Wu
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.20(2019)187.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2018.1549460