超分子の自己組織化配列でリチウムイオンの通り道となるナノチャンネル構造を造る
Published : 2017.08.30 / DOI : 10.1080/14686996.2017.1366816
自動車産業、再生可能エネルギー分野などで、今まで以上に高性能の電池の開発がもとめられ、新しい固体電解質材料の開発競争が繰り広げられる中、自己組織化を用い超分子の配列を制御、リチウムイオンの通り道(パス)となるチャンネルを構築した超分子固体が新しい固体電解質の候補として名乗りを上げている。
Science and Technology of Advanced Materialsに、静岡大学、守谷誠が発表したレビュー論文 Construction of nanostructures for selective lithium ion conduction using self-assembled molecular arrays in supramolecular solids は、彼らのグループで研究開発しているリチウムイオン伝導に優れる超分子固体電解質を紹介している。さらに、構成分子を変化させることでイオン伝導パスの構造を制御し、作製したそれぞれの分子性固体における結晶構造とイオン伝導性の相関関係を解説している。
著者らはLi塩としてLiTFSA(TFSA: bis(trifluoromethanesulfonyl)amide anion, [N(SO2CF3)]2−)を用い、これに有機化合物を加え、自己組織化させることでイオン伝導を引き起こすリチウムイオンのパスとなるチャンネル構造を持った分子性結晶を作製した。組み合わせる有機化合物を変えると、異なるチャンネル構造を持つ結晶が作製でき、イオン伝導の特性を変化させることができる。こうして作製した超分子固体のイオン伝導度は、有機液体、無機セラミックス、ガラスなどの電解質材料ほどには高くないが、固体電解質として可能性の期待されているポリマー電解質と同程度である。また安全性の観点から見れば、ポリマー、有機液体電解質よりは有機成分が少ないため可燃性が低く、より安全な材料と言える。
著者は、低い活性エネルギーと高いイオン伝導性を合わせ持つ分子性結晶電解質設計の構造制御の指針は、チャンネル構造とリチウムイオンの相互作用を弱め、活性エネルギーを減らすこと、分子間のLi-Li距離を近づけイオンの拡散を容易にし、さらに空いているホッピングサイトを増やすことである、としている。 さらに、著者は、組み合わせ分子を変えることで、超分子固体のチャンネル構造は自在に変えられるという多用途性を持つことから、 今後この超分子固体のなかから画期的に高いイオン伝導性を持つ材料が見つかる可能性が十分ある。超分子の階層的な構造の与える分子イオニクスへの効果の大きさは従来に無い新しい固体電解質の設計、ひいては分子性デバイスの開発に新しい戦略手法を与える、と期待している。
論文情報
- 著者
- Makoto Moriya
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.18(2017)634.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2017.1366816