脳腫瘍の新生血管を可視化する機能化ナノカプセル

2015.05.26掲載
INVITED ARTICLE

Published : 2015.05.20 / DOI : 10.1088/1468-6996/16/3/035004

ポリイオンコンプレックス型ベシクル(Polyion complex vesicles, PICsomes)は,ポリエチレングリコールとポリアニオンからなるブロック共重合体とポリカチオンで構成されるナノサイズの中空粒子である(図1).他の中空粒子と異なり,PICsomeは水中での攪拌のみによって生成することが可能であり,また,ポリアニオンとポリカチオンを縮合反応で架橋することによって任意の安定性を付与することができる.さらに水溶性分子を内水相へ封入することも可能であることから,ドラッグデリバリーシステム(DDS)への応用が期待されている.

Science and Technology of Advanced Materialsに発表された三浦・片岡らによる論文「Density-tunable conjugation of cyclic RGD ligands with polyion complex vesicles for the neovascular imaging of orthotopic glioblastomas」では,脳腫瘍の新生血管に過剰発現しているαvβ3ならびにαvβ5インテグリンを能動的に標的可能なリガンド分子を導入したPICsomeについて報告している.その中で,著者らはPICsomeの粒径とリガンド分子である環状RGDペプチドの密度の適切な制御が腫瘍血管への結合と標的効率,さらには血管内から腫瘍内への移行に重要な因子となっていることを論じている.また,リガンド密度を制御したPICsomeの内水相へ超常磁性酸化鉄(Superparamagnetic Iron Oxide, SPIO)を封入し,それらを核磁気共鳴画像法(Magnetic Resonance Imaging, MRI)の造影剤として応用することによって脳腫瘍の新生血管をイメージングできることを確認している(図1).著者らによって見出された知見が,今後の医療応用を目指したナノマテリアルの設計やDDSの発展に貢献できることが期待される.

図1:環状cRGDリガンドを有するポリイオンコンプレックス型ベシクルと新生血管イメージングへの応用. Source: Sci. Technol. Adv. Mater. Vol. 16 (2015) p. 035004, Fig. 1, 6, 8, 10から再構成.

論文紹介先:

  • 片岡 一則, 東京大学大学院医学系研究科, kakataoka@bmw.t.u-tokyo.ac.jp
  • 三浦 裕, 東京大学大学院医学系研究科

海外メディア:

論文情報

著者
川村 渉, 三浦 裕, 國領 大介, 藤 加珠子, 山田 直臣, 野本 貴大, 松本 有, 末吉 大輝, 劉 学瑩, 青木 伊知男, 狩野 光伸, 西山 伸宏, 佐賀 恒夫, 岸村 顕広, 片岡 一則
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.16(2015)035004.
本誌リンク
http://doi.org/10.1088/1468-6996/16/3/035004