先進的再生医療に役立つナノテクノロジー

2013.11.05掲載
ARTICLE

Published : 2013.11 / DOI : 10.1088/1468-6996/14/5/054401

幹細胞は,損傷を受けた生体組織の治癒,修復を担っている.ナノテクノロジーによってこの幹細胞の修復作用に優れた行動手段が付加されるならば,再生医療の新しい戦略手段となり得る可能性が指摘されている.Science and Technology of Advanced Materialsに発表された台湾の研究者によるこのレビュー論文は,ナノテクノロジーの幹細胞生物学への応用の最前線を簡潔に紹介している.(“ナノテクノロジー”はナノスケールの構造または材料の設計,構築,製造,利用する技術)

幹細胞は損傷を受けた人体組織の修復に重要な役割を果たすと考えられている.これまでの研究によれば,幹細胞を取り巻く化学的または物理的な行動刺激信号を送るミクロな環境が,幹細胞の接着,成長,分化といった修復行動に影響を与えているとされている.人体組織の枠組みを形成する複合した細胞外基質や構造の“ナノトポグラフィー”もこれらの行動刺激信号に含まれる.

Yang-Kao Wangおよび共著者は,このレビュー論文で,ナノサイズの空隙,溝,稜等から成るナノトポグラフィーが,幹細胞の振る舞いや,結果として得られる組織にいかに重要な役割を果たしているかを紹介している.著者等はまた幹細胞の分離,トラッキング,イメージングへのナノ粒子の応用,2次元的細胞接着から3次元的組織生成(再生)へのナノテクノロジーに依る拡張,幹細胞生物学にナノ材料を用いることの本質的限界,などについても議論している.

本論文は,更に,ナノ材料と幹細胞の相互作用の理解により,組織工学と再生医療において,細胞とスカフォールドのより良い組み合わせの開発に適用できる知見が得られると結論づけている.

図1:幹細胞機能を調節発揮させるナノテクノロジー,(A)細胞外基質の適切な間隔によりインテグリン会合を適切に活性化させ,インテグリン細胞接着,細胞骨格の組織化,細胞伸展が引き起こされる.(B)表面修飾したナノスカフォールドが幹細胞の自己増殖,神経形成分化,骨形成分化の機能を調節する.

論文情報

著者
King-ChuenWu
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.14(2013)054401.
本誌リンク
http://doi.org/10.1088/1468-6996/14/5/054401