SDGsに貢献する耐熱合金材料

α-Nb5Si3微小柱状結晶の塑性変形挙動からその機械的特性を調べる

2021.01.19掲載
ARTICLE

Published : 2021.01.05 / DOI : 10.1080/14686996.2020.1855065

正方晶系D8lの結晶構造を持つ耐熱材料 α-Nb5Si3の微小柱状単結晶に室温で応力を負荷し、その塑性変形挙動を結晶方位および試料サイズの関数として研究している。
近年、地球は温暖化しつつあり、その抑制には、人為的温室効果ガス、特に化石燃料の燃焼による二酸化炭素の排出削減が必須である。自然エネルギーへの転換が求められる一方で、電力プラント、輸送分野などにおける種々の燃焼システムで熱効率を高めるというのも最も現実的な選択肢の一つと言える。
電力プラント、輸送分野で用いられるガスタービンの熱効率を改善するためにはタービン吸入口の温度を1600℃以上に高めることが求められ、この高温に耐えられる新しい構造材料の開発が必須である。現在用いられているニッケル基超合金は、その融点が1400℃程度で、この要求には応えることができない。
ニオブシリサイドーニオブ固溶相が、1700℃を越える融点、高強度、高破壊靭性を持つことから、近年、ニオブシリサイド基合金への期待が高まっている。

Science and Technology of Advanced Materialsに、日本、京都大学、岸田恭輔らが共著発表した論文 Micropilllar compression deformation of single crystals of α-Nb5Si3 with the tetragonal D8l structure は、ニオブシリサイド基合金の強化相であるNb5Si3について、今まで良く知られていなかった単相 α-Nb5Si3の塑性変形挙動を明らかにし、その機械的性質について報告している。
Nb5Si3には、低温相α-Nb5Si3と高温相β-Nb5Si3があり、1700℃で相転移する。このため、機械的性質の測定に適するサイズのα相単結晶の育成は困難で、α相の機械的性質の知見は乏しかった。著者等は、まずβ相単結晶棒を一方向凝固法で育成し、室温に戻す過程でβ—α相変態により、結晶粒サイズ数十ミクロンのα相多結晶棒を得た。ここからマイクロメーターサイズのα相微小柱状結晶(稜の長さ0.7~5μm、縦横比2~3)を切り出し、これを用いて圧縮試験、破壊強度測定を行っている。
圧縮試験後の試料面に現れたすべり線のSEM観察から、塑性変形が起きた時のα-Nb5Si3のすべり面、方向が(001)<010>, {110}<1-10>, {0-11}<111>であり、これらは同型構造を持つMo5SiB2と同じであることを明らかにした。さらに、これらのすべり系の臨界分解剪断応力は2.0 GPaを越えて非常に高く、しかも“小さいほど強い”という傾向を示すことが示された。他方、α-Nb5Si3の破壊靭性は1.79 MPa.m1/2と、Mo5SiB2の2.43 MPa.m1/2よりかなり低い値が導かれ、 α-Nb5Si3の方が比較的容易に瞬間破壊が起きることを示している。α-Nb5Si3の脆性は、金属基合金の強化相として利用するには不利にはたらくが、著者らは別の合金元素を添加することで α-Nb5Si3の脆性は改善できると考えている。

著者らは、今まで明確でなかったα-Nb5Si3の機械的性質を、微小柱状結晶を用いた圧縮試験、破壊強度測定で明らかにすることに成功した。今後、この手法を相変態などがあって、単結晶育成が難しく、その機械的性質が明らかでなかった他の耐熱材料についても応用してゆくことを計画している。

図の説明:さまざまな結晶方位を持つ微小柱状単結晶に応力を負荷し、その塑性変形を測定する。

論文情報

著者
Kyosuke Kishida, Takuto Maruyama, Takayoshi Fukuyama & Haruyuki Inui
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.21(2020)805.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2020.1855065