機械学習が拡大させる実験と計算の組み合わせによる材料特性予測の可能性
Published : 2020.01.15 / DOI : 10.1080/14686996.2019.1707111
ハイスループットな実験(コンビナトリアル実験)と、ハイスループットな理論計算(ハイスループット第一原理計算)を機械学習と組み合わせることで材料の特性をより簡単、適切に予測することが可能となる。
最近のハイスループット実験の発達は、広い組成領域にまたがる相図内の各位置で、組成ー構造ー特性の関係をマッピングしてゆくことを可能にし、新材料開発を加速している。しかし、そのようなハイスループット実験を行うための機器は一般に高額となり、気軽に使用することは難しい。
一方、最近の第一原理計算の発達は、計算により材料の特性を予測することを可能にし、現実の実験に頼らなくても正確に材料特性を求めることができる。しかし、第一原理計算は、ある特定組成の特定の構造については正確に特性を決めることができるが、広い組成範囲の相図内のある特定の組成について計算しても正しい結果を与えることができるとは限らない。相図内の広い組成領域にわたって、構造がすべて同じとは限らず、しかも往々にして構造の異なる複数の相が共存しているからである。共存するそれぞれの相を特定し、互いの構成比を決めることで、初めて第一原理計算の適用が可能となる。
Science and Technology of Advanced Materialsに 、日本の岩崎悠真(NEC, PRESTO)、石田真彦(NEC)、白根昌之(NEC, AIST)が共著発表した本論文 Predicting material properties by integrating high-throughput experiments, high-throughput ab-initio calculation, and machine learning は、ハイスループットな実験と計算を組み合わせる際に、機械学習を適用し、プロセスを合理化することで、正確で、迅速な特性予測が可能になることを示した。
著者らはFexCoyNi1-x-y三元合金系の広い組成領域で、この手法を用い、カー回転(Kerr rotation)を計算、マッピングすることを試みた。サファイア基板上に100 nm厚のFe、Co、Ni三元合金薄膜を、三元相図上のそれぞれの組成に対応させて作成した。続いて、コンビナトリアルXRDにより、それぞれの組成でのXRDデータを蒐集した。三元相図のFe頂点位置近傍ではfcc構造相、またNiおよびCo近傍ではhcp構造相と単相であり、そのまま第1原理計算による特性予測が適用できる。しかし、中間組成領域では複数の相の混合物となっているため、共存する各相間の構成比を出す必要がある。このため、測定されたXRDパターンを、構成する各相のXRDパターンに分解しなくてはならない。しかし、大量にある組成毎のXRDパターン全てに通常のカーブフィッティング法を適用してパターン分解することは容易でない。そこで著者たちはこのXRDパターンの分解に機械学習を適用することで、各相間の構成比を容易に決めることができた。得られた構成比を基にして第一原理計算により、各組成でのカー回転を計算した。下図に示すように、この計算で得られたカー回転は実験結果との比較で良い一致を示した。
カー回転は、フォトニックスや半導体デバイスといった応用上でも重要な物理特性で、著者達のアプローチが実用材料の開発を加速させ得るものであることを示している。一方、著者達は、彼らのアプローチはまだ改善の余地があり、ここで用いたコンビナトリアルXRDの替わりに、計算で相図を求めるCALPHADを用いれば、今後、高額な実験装置を使用することなく、計算のみで特性予測が可能になる、としている。
論文情報
- 著者
- Yuma Iwasaki, Masahiko Ishida and Masayuki Shirane
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.21(2020)25.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2019.1707111