近赤外発光量子ドットを利用した生体イメージング

生体組織を透視するバイオマーカー、安全性の確立が課題

2019.04.22掲載
REVIEW ARTICLE

Published : 2019.04.15 / DOI : 10.1080/14686996.2019.1590731

生体組織を透視するイメージングに有用な近赤外発光量子ドット(Near-infrared light emitting quantum dot, NIR-QD)の研究が注目著しい。QDは20ナノメートル以下の直径を有する結晶粒子で、さまざまな化学組成の半導体で作製することができ、粒子サイズにより発光波長を連続的に制御できる。QD中に閉じ込められた電子の状態密度は離散化されるために、そのエネルギー状態を巧みに利用して、QDレーザーやタンデム型太陽電池など、種々の応用が期待されている。NIR-QDをマーカーに利用して生体内組織を画像化するイメージング研究は1990年代以降に急進展している。現在主流のNIR-QDはCd、Pb、Hgを主な構成元素に含む。これらの元素が生体に対して強い毒性を示す点が懸念されていることから、生体無毒で安全性の高いNIR-QDの開発が急務となっている。

Science and Technology of Advanced Materialsに、日本、物材機構、シナタンビ シャンムガベルと白幡直人が発表したレビュー論文 Recent advances on fluorescent biomarkers of near-infrared quantum dots for in vitro and in vivo imaging は、生体イメージングに適用可能なNIR-QDについて、最近の研究状況を紹介している。
紫外から可視領域の光は、ヘモグロビンや水など生体組織に吸収されてしまうので生体深部の観察には不適である。また細胞の自家蛍光を妨げる点でも励起光としての紫外光は不適である。一方で、近赤外に相当する750-940、1200-1700 nmの二波長領域に対して生体組織は透明性が高く、また発光もしない。それゆえ、これらの近赤外域で光通信の行えるQDが研究されている。
本稿で紹介する蛍光法は、NMRで行えるような広い領域を短時間でイメージングする手法というよりは、癌であるとかリンパ節といった特定の部位を高解像度で長時間モニタリングできる点に特徴を有する。ここでは、II-VI、IV-VI、I-VI、I-III-VI、III-V、IV族の半導体QDsを紹介する。II-VI族ではCdTe、HgTe、IV-VI族ではPbS、PbSe、I-VI族ではAg2S、Ag2Se、I-III-VI族ではCuInS2、Cu(In, Ga)Se2、AgInS2、III-V族ではInAs、IV族ではC、Si、GeのQDsがハイライトされる。

最近の研究ではCd、Pb、Hgといった生体や環境に悪影響を及ぼすリスクのあるQDに対して、QD表面を毒性の無い材料で包む試みもなされているが、イメージング対象となる個体のサイズが大きくなるほど毒性が顕著に現れるとの報告もあるので取扱には注意が必要である。一方で、生体毒性の極めて低いC、Si、GeのQDsはバイオマーカーに適している。特に、SiQDは生体や環境に対し毒性が低く、また発光の量子効率も高いので期待されている。QDの生体内での安全性が確保できれば、NIR-QDによる生体イメージングは今後、実用化が十分期待できる。ただ、そのためには強発光するNIR-QDsが開発される必要がある、と著者らは指摘している。

図の説明:特定のタンパク質に付随させた量子ドットからの発光(スナップショット中の赤色光点)をリアルタイムで観測することで脳神経細胞中のタンパク質拡散を研究することができる。スケールバー:5ミクロン

論文情報

著者
Shanmugavel Chinnathambi and Naoto Shirahata
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.20(2019)337.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2019.1590731