材料データマイニングで新しい超伝導物質を発掘
Published : 2018.12.20 / DOI : 10.1080/14686996.2018.1548885
膨大な量の無機物質の結晶構造データが蓄積された材料データベースから、データマイニングにより候補物質を掘り上げた。それを実験的に合成、測定を行い、PbBi2Te4が高圧力下での新超伝導物質であることを発見し、データ科学で新機能性物質を探索するマテリアルズ・インフォマティクスの手法が有用であることを示した。
従来、新機能性物質探索は、研究者の経験と、それに基づく洞察力とにより、可能性のある領域内を定め、その中を、例えば、コンビナトリアル手法のような方法で絨毯爆撃的に調べるということが行われていた。昨今、ビッグデータからAIを用いて有用な情報を引き出すことが可能になってきていて、材料科学の分野でも、データ科学を活用して候補物質を絞り込み、少ない実験で新機能性物質を見出す、ということが可能になりつつある。
Science and Technology of Advanced Materialsに、物材機構、高野義彦らと愛媛大学、入舩徹男らが共著発表した本論文 Data-driven exploration of new pressure-induced superconductivity in PbBi2Te4では、新超伝導物質ないし新熱電物質の探索に、データ科学に基づくマテリアルズ・インフォマティクスの手法を用い、いくつかの候補物質を選び出し、その内の一つの候補物質PbBi2Te4を実験的に合成、物性測定を行い、この物質が予測どおり圧力下で超伝導を示したこと、また熱電物質の候補ともなり得ることを報告している。
著者らは、10万個以上の無機物質の結晶構造データが集積されている物材機構所管の材料データベース AtomWork を用い、現実的に電子状態を計算可能な候補物質として約1500個を選び、さらにフェルミレベル近傍で高い状態密度を持ち、しかもバンドギャップが狭いという制限を課し、45個の候補物質を選んだ。このうち、10GPaの圧力下でバンドギャップが狭くなると予測できた27候補物質のうちからPbBi2Te4を選び出した。著者らは同様の手法で、SnBi2Se4も選び、実際高圧力下で超伝導を示すことを見出し、すでに報告している。SnBi2Se4の結果をもとに、より低圧で超伝導や熱電材料が実現できることをねらい、同じ結晶構造、バンド構造を持ち、より狭いバンドギャップ ~200meVを持つということでPbBi2Te4を選定したものである。
PbBi2Te4の単結晶試料は、定比組成で混合した原料試料を石英管内で溶融、その後、徐冷することで育成している。高圧力下の電気抵抗測定は、ホウ素をドープしたダイアモンド電極を微細加工した独自開発のダイアモンド・アンビル・セルを用いて行なっている。候補物質の選定から、合成、測定を経て、高圧力下での超伝導を発見する道筋を概念的に図1に示す。
SnBi2Se4が室温、常圧で半導体的であるのに対し PbBi2Te4は金属的電気伝導性を示す。高圧力を加えると、10 GPa 以上で超伝導性を発現し、13.3 GPaでのTconsetは3.4 Kさらに、18.0 GPaでは8.1 Kを示した。SnBi2Se4の超伝導性は ~20 GPa 以上で発現するのに対し、PbBi2Te4は約半分の圧力ですでに超伝導性を示し始めている。一方、熱電特性においてはPbBi2Te4 は、SnBi2Se4よりはるかに高いパワー・ファクターとフィギュア・オブ・メリットを示し、それぞれ~100 µWm-1K-2、~0.02であり、熱電材料としての可能性も示した。
著者らは、本報告が、データ科学で新機能性物質を探索するマテリアルズ・インフォマティクスの手法が有用であることのケース・スタディを示すものである、としている。
論文情報
- 著者
- Ryo Matsumoto, Zhufeng Hou, Masanori Nagao, Shintaro Adachi, Hiroshi Hara, Hiromi Tanaka, Kazuki Nakamura, Ryo Murakami, Sayaka Yamamoto, Hiroyuki Takeya, Tetsuo Irifune, Kiyoyuki Terakura and Yoshihiko Takano
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.19(2018)909.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2018.1548885