3Dプリンティング技術に大いなる可能性、課題の克服も必要
Published : 2018.03.08 / DOI : 10.1080/14686996.2018.1431862
ロボットと言えば、鉄腕アトムやロボコップ、さらには産業界で広く使われている産業ロボット、いずれも頑丈な剛体でできているが、これからのロボットとして、人間の体の構造に近いプラスチックや弾性材を使ったやわらかく、人に優しい“やわらかいロボット”(ソフトロボット)の開発研究が進んでいる。その製作にはまだ課題は多いものの3Dプリンティングが適している。従来の硬いロボットはほぼ金属でできていて、おもに金属の切削加工で作られる。この切削加工は謂わば引き算の加工であるが、やわらかいロボットの素材であるやわらかい素材の加工には不向きである。やわらかい素材の加工には素材を必要な形状に積み上げる謂わば足し算の加工法が必要で、3Dプリンティングが優れる。
Science and Technology of Advanced Materialsに、韓国、Jeju National University(済州大学校)のJahan Zeb Gulらの発表したレビュー論文 3D printing for soft robotics – a review は、まず、3Dプリンティングとソフトロボットとの関係について全般的な解説を行い、続いて、使われる種々の3Dプリンティング技術を紹介している。さらに、ソフトロボット作製を3Dプリンティングで行うための使用可能な種々の材料について述べ、最後に3Dプリントで生体を目標として作製されたソフトロボットの実例を種々紹介している。著者らは、複雑な外部形状を持ち、しかも内部に空孔のあるようなソフトロボットを作製するには3Dプリンティングが良く適合している、とする一方、この分野はまだ新しく、複数の材料を適切に接着させてソフトロボットを作製するまでにはまだ大きなギャップがある、としている。
ソフトロボットは形状を容易に変えうる液体、ゲル、ポリマーといった材料で作られ、生体組織の持つ機能を模倣できるものになる。ここ数年、その作製に従来のモールディング法とかキャスティング法に替わって3Dプリンティングを用いる傾向が強くなっている。3Dプリンティングには多くの方法があるが、いずれも対象物形状の三次元デジタルデータを基にして一層ごとの形状を決め、それを連続的に積層して最終的に全体形状を作製するものである。積層に対してプリンティング法ごとに異なる材料、積層法を用いることになる。例えば、複数の指を持ち、対象物を掴んだり、持ち上げたり、回転させたりして、正確に位置取りさせることのできるソフトロボットハンドの開発には金属粉を用いた選択的レーザー焼結法が用いられている。3Dプリントで作るソフトロボットに使われるその他の材料としては、電場によって大きな歪みを生成し、形やサイズを変える誘電性エラストマー、熱によって形を変える形状記憶ポリマー、熱、電気、酸性度、磁気、光といった刺激の変化に影響されるハイドロゲル等がある。
ソフトロボットは人体の内外で種々の目的を持ってテストされつつある。例えば、3Dプリントで作製したシリコーンポンプが人工心臓として使われ得るし、病気の監視をするために血管や内蔵の中を移動してゆく3Dプリントで作製したマイクロソフトロボットが研究されている。人体外では、バイタルサインをモニターする補綴のためのソフトロボットとか、薬物検査における動物の役割に置き換わる生体機能チップとしてのソフトロボットも開発されつつある。一方でこれら医療用途のためのこれらの技術も未だ克服すべき課題は多い。例えば、しばしば固化の段階で材料が収縮してしまうという問題がある。また、3Dプリンティングは加工速度が遅すぎるために現時点では大量生産には適さない。
著者らは今後これらの3Dプリンティング技術が商業的に成功するかは大量生産を可能にする3Dプリンティング装置試作品が開発できるかにかかっているとし、また、作製されたロボットが市場の要求にあった廉価で、安全なものでなくてはならないと結論づけている。
論文情報
- 著者
- Jahan Zeb Gul, Memoon Sajid, Muhammad Muqeet Rehman, Ghayas Uddin Siddiqui, Imran Shah, Kyung-Hwan Kim, Jae-Wook Lee & Kyung Hyun Choi
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.19(2018)243.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2018.1431862