生体外実験で生体組織と生体材料間の界面状態を理解、評価する
Published : 2017.07.31 / DOI : 10.1080/14686996.2017.1348872
高齢化社会を迎え、人工関節、歯科インプラント、人工血管などのインプラント治療の機会が増大している。インプラント治療に用いられる生体材料の開発には生体適合性、安全性、有効性などの評価に多くの労力を要する。開発成功の鍵になるのは生体組織とインプラント材との界面の状態をいかに向上させるかである。適切な生体外実験で、生体と生体材料間の界面で起こる現象をシミュレートして、現象に対する理解を深めるとともに、評価、スクリーニングすることで生体材料開発を促進することができる。
Science and Technology of Advanced Materialsに、フィンランド、Aalto University FoundationのMichael Gasikの発表したレビュー論文 Understanding biomaterial-tissue interface quality: combined in vitro evaluation は、まず、インプラント材が生体に埋め込まれた際に生体組織側で起こる諸現象について全般的な解説を行い、続いて、生体組織と生体材料間の相互作用にバクテリアがどのような影響を与えるかについて述べている。さらに、世界で最も多く使用されている歯科インプラントについて詳しく紹介し、最後に組織とインプラントの関係を解析するための新しい生化学的評価の応用例を紹介している。 著者に依れば、最小の試料数と実験で、最大のデータ、情報を得ることにより、的確なスクリーニングができるよう実験をデザインする必要があるが、そのためには生体外実験においてできるだけ詳細に正確にインプラントの環境をシミュレートしておくことが重要である。そうすれば生体外実験の結果と実際の臨床成績との関係性を高めることができ、インプラント材を製作するメーカーは個々の開発品の性能についてより深く知ることができ、素早く第1候補の製品を選ぶことができる。結果として開発コストを下げ、迅速な製品開発へと結びつけることができる。このようにして医療製品開発のための評価に要する時間と労力は劇的に軽減できる、としている。この概念を具体的に示すために、著者は歯科インプラントを取り上げている。図1に示すように、歯科インプラントのテストピースは培養組織で囲んだチタン棒とし、試料を取り囲む培養液の温度、酸性度、バクテリアの有無などの実験条件は変えることが可能である。実際の咀嚼を模擬するためにチタン試料棒を振動させ、機械的な測定からインプラントがどの程度しっかりと組織に固定できているかを評価する。インプラントの評価は、生体組織と生体材料がどの程度しっかりと接合しているか、バクテリアの侵入や生体膜の形成も見なければいけない。著者は、図1で示したテストプラットフォームは人工軟骨治療のようなもっと複雑な系に対応するよう調整することも可能であるとしている。
論文情報
- 著者
- Michael Gasik
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.18(2017)550.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2017.1348872