負性熱膨張材料 – 精密光学素子から歯の詰め物にまで応用の広がる加熱すると収縮する材料

Negative thermal expansion materials: technological key for control of thermal expansion

2012.02.10掲載
REVIEW ARTICLE

Published : 2012.02.02 / DOI : 10.1088/1468-6996/13/1/013001

歯に詰め物をした人が熱い飲み物を飲んだ時経験する歯痛は,詰め物が歯と異なった割合で膨張するためである.直感的には「加熱すると材料は膨張する」と思うが,なかには収縮するものもある.最近の負性熱膨張材料(negative thermal expansion: NTE)の研究は期待以上に熱収縮する合金を発見することになった.

ナノメータースケールの電子回路とか次世代燃料電池,熱電素子等の製造には複合材料の熱膨張を制御することは欠かせない.通常の加熱により膨張する材料とNTE材料を組み合わせて歯と同じ熱膨張を示す複合材料を作ることができれば歯に詰め物のある人にとってはまさしく福音となる.「熱膨張を特定の値?典型的にはゼロにしたい」という要求は,高度に産業技術が発達した現代においては至る所に存在している.伝統的には,非常に低い熱膨張率を示すインバール合金(ニッケル鋼合金)が知られ,精密機器,時計,クリープゲージといった高精度の寸法安定性を要求されるところに使われる.

名古屋大学,結晶材料工学専攻,竹中 康司氏はNTE材料の応用について研究を行っている.Science and Technology of Advanced Materials の最新号で,同氏はNTE材料をつかさどる物理的メカニズムをこの分野における最近の発展に焦点をあてながら紹介している.

竹中氏は “NTE materials will expand our capability of thermal-expansion control, opening a new paradigm of materials science and technology ? thermal-expansion-adjustable composites”と述べている.科学者達の直面している問題は複合材料にNTE材料を添加した時,界面に望ましくない不安定性が発生することである.ホスト材料と補償NTE材料の間に安定な界面を形成する新しい手法が開発される必要がある.一方で,マンガン逆ペロブスカイト,バナジン酸ジルコニウム,タングステン酸ハフニウムといった単一成分材料は無視できる程度の熱膨張しか示さないことからこれらの利用が問題解決の別ルートとなりうるであろう.

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論文情報

著者
Koshi Takenaka
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.13(2012)013001.
本誌リンク
http://doi.org/10.1088/1468-6996/13/1/013001