コロイド液滴乾燥時のコーヒーリング効果をセルロースナノファイバーの分散で抑制

インクジェット印刷、印刷エレクトロニクスに貢献

2017.05.19掲載
ARTICLE

Published : 2017.05.09 / DOI : 10.1080/14686996.2017.1314776

インクジェット印刷や印刷エレクトロニクスにおいて、コロイドを分散した液滴の乾燥は一連のプロセスの中でも重要な部分である。コロイド分散液滴が乾燥した時にコロイドが周縁部には濃く堆積し、中心部は薄くなってしまうことがしばしば起きる。こぼしたコーヒーの水滴が乾燥するとコーヒーの色が縁の部分は濃く、中心部では薄くなってしまうのと同じ現象で、コーヒーリング効果と呼ばれている。液滴から分散剤液が蒸発するとき、蒸発する速度は液滴の縁の部分で最も速く、そのため液滴中に流れが発生し、この流れに乗ってコロイドが液滴の縁に引き寄せられることからこのコーヒーリング効果は起こる。この現象の発生は、顔料コロイドを含んだ液滴を吹き付け印刷するインクジェット印刷では、当然ながら印刷されたものの質をおとすことになる。この現象の発生は、同様の手法を用いる印刷エレクトロニクスにおいては大きな問題となる。印刷された部分にコロイド粒子が一様に分散固着していることが製品の最高のパーフォーマンスを引き出すために必要である。このコーヒーリング効果を抑制する方策として分散剤液の粘性、表面張力、蒸発速度などの調整が行われている。また、コロイドの形状を、糸状、楕円状など偏長にすることも有効となることが既に知られている。

Science and Technology of Advanced Materials に、日本、東京農工大のYuto Ooiらと名古屋大の研究者が共著発表した本論文Suppressing the coffee-ring effect of colloidal dropletes by dispersed cellulose nonofibersでは、この問題の効果的な解決に、上述とは異なるアプローチとして、環境にも優しいセルロースナノファイバーの添加が有効であることを報告している。セルロースナノファイバーは全ての植物細胞壁の骨格成分で、植物繊維をナノサイズまで細かくほぐすことで得られる。著者らは粒径1.4μm ポリスチレンコロイド粒子を水に0.1 wt%の濃度で分散させ、添加するセルロースナノファイバーは平均直径20nm、長さ1μmの市販のセルロースナノファイバーを使用し、実験を行った。コロイド分散液に異なる3種類の濃度(0, 0.01, 0.1 wt%)のセルロースナノファイバーを加えたもの、およびセルロースナノファイバーを加えずコロイド粒子の濃度を増やしたものについて、それぞれの乾燥プロセスをディジタルカメラで観察した。

コロイド分散した液滴は図1に示すように、セルロースナノファイバーを加えたものの方が加えないものよりはるかに一様に乾燥し、中空のリングではなく、密なドットして、液滴の時より少しサイズが縮んだ状態で凝縮、乾燥した。セルロースナノファイバーを加えない時には乾燥の最終段階でコロイド粒子が周縁部に押し寄せるが、セルロースナノファイバーを加えたときにはそのような現象は見られなかった。著者達は、セルロースナノファイバーの添加が乾燥プロセスを改善、一様な乾燥へと導き、印刷物の質の低下、印刷された文字の明瞭度や印刷エレクトロニクスで作製した回路の電気伝導度の改善につながると結論づけている。

乾燥、印刷されたドット内にはセルロースナノファイバーは残っていることから、それが印刷エレクトロニクスで作製した回路素子のパーフォーマンスにどのような影響を与えるかは今後の研究課題である。印刷エレクトロニクスにおいては回路の電気抵抗は他のリソグラフィーで作製されたものに比べて一般にかなり高いという弱点がある。セルロースナノファイバーの存在が電気抵抗に影響を与えることが懸念されるものの、著者らはセルロースナノファイバーの添加濃度を適切に調節することでこの問題を解決できるとしている。

図1 ポリスチレンコロイド粒子液滴乾燥後の凝集体写真 (a)セルロースナノファイバー無添加 (b) セルロースナノファイバー 0.01 wt% (c) セルロースナノファイバー 0.1 wt%

論文情報

著者
Yuto Ooi, Itsuo Hanasaki, Daiki Mizumura & Yu Matsuda
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.18(2017)316.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2017.1314776