遺伝子起源疾病の診断に優れたバイオセンサーとして期待
Published : 2017.01.10 / DOI : 10.1080/14686996.2016.1253408
グラフェン電界効果トランジスター(GFETs)が遺伝子起源疾病の診断に近々役立つことになろう。GFETsは生体センサーおよび化学センサーとして開発されつつあり、当然DNAセンサーとしての開発も期待されている。グラフェン電界効果トランジスターをDNAセンサーとするにはプローブDNAをグラフェン上に固定する必要があるが、研究者達はDNAをグラフェンに固定するのに従来とは異なる蒸発乾固という簡単な方法で良いということを見出した。
医用診断、バイオ研究においてバイオマーカーの検出および定量化は大変重要で、最近低次元材料をセンサーとした電界効果トランジスターの開発が盛んである。グラフェンはグラファイト結晶のc-面一層を取り出した、六方格子状に配列した炭素原子の単層で、特異な材料特性を有し、高い電気伝導度などはセンサー用途に適している。GFETsで問題遺伝子を検出するには、まず問題遺伝子の2重鎖DNAの一本鎖をプローブDNAとしてグラフェン上に固定し、それと相補的な標的DNAが会合、両者が交雑(hybridize)した時、GFETs内の電気伝導度が変化することで問題遺伝子を検出する。
Science and Technology of Advanced Materialsに、日本の物質・材料研究機構のArun Kumar Manoharanらが発表した本論文Simplified detection of the hybridized DNA using a graphene field effect transistorでは、著者らはGFET作製にあたり、まずシリコン基盤上に剥離により作製した単原子層グラフェンを置き、それを金とチタンの合金からなるソース、ドレイン電極で挟み、ソース電極、グラフェンチャンネル、ドレイン電極と配置する。さらに、このグラフェンチャンネルの電子応答を検出するゲートコンタクトを配することで全体を構成している。チャンネル表面の修飾やプローブ分子が表面と結合できるようグラフェンの表面は露出している。とは言え、グラフェン表面は、グラファイト結晶のc-面と似て反応性は低く、ほとんどの材料と結合しない。これを解決するために、グラフェンは炭素原子のみでできていることから、化学的方法を用いて結合部位を表面に生成し、これにより機能化することが従来行われてきている。しかし、著者らはこのグラフェン表面にプローブDNAを固定するために、そのような表面の化学的処理をすること無く、単純にプローブDNAを溶解した塩水をたらし、蒸発乾固させる方法をとった。このプローブDNAを直接固定する方法は十分安定にプローブDNAをグラフェン上に固定でき、再度塩水に曝してもプローブDNAが流出することはなかったと報告している。続いて標的DNAを溶解した塩水を加え、4時間保温することでプローブDNAと標的DNAとの間にDNA交雑が起こる。このDNA交雑が起こったことはGFETの電気伝導の変化として検出することできた一方で、プローブDNAとは相補的でないDNAに対してはDNA交雑はおこらず、電気伝導の変化も起こらなかった。このことから、著者らは、作製したGFETおよびプローブDNAの固定が正しく機能し、標的DNAのみを検出することを確認した。
通常、DNA交雑は標的DNAを蛍光色素で標識付けし、プローブDNAと結びついた時発する蛍光を光学的に読み取る方法が主に用いられてきた。しかし、この方法は複雑な標識付けプロセスがあり、また、蛍光を読み取るための高額なレーザースキャナーが必要でもあった。GFETsはそれに対し、遥かに安価で、操作も容易であり、感度も高く、特にDNAヌクレチオドを特定した検出に優れるので、今後遺伝子起源疾病の検出に威力を発揮することになるであろう。GFETsの特性を生かして今後さらに開発してゆけば遺伝子起源疾病の検出に優れるのみならずバイオセンサーとしての応用、例えば匂いセンサーなどへの応用も開けてくるであろう。
論文情報
- 著者
- Arun Kumar Manoharan, Shanmugavel Chinnathambi, Ramasamy Jayavel & Nobutaka Hanagata
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.18(2017)43.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2016.1253408