ガラス窓も発電所に
Published : 2017.01.10 / DOI : 10.1080/14686996.2016.1261602
太陽電池は今や私達の生活の中のあちこちに広がっていて、日本各地で遊休地が太陽光発電所に再利用されているのを目にする。そんな中で、有機太陽電池が低コストで大面積、しかもフレキシブルという優れた特性を持つエネルギー変換素子ということで注目されている。有機半導体と透明電極を組み合わせれば半透明な有機太陽電池ができ、温室やポータブルチャージャー、さらには窓ガラスや屋根での発電素子としての利用も期待できる。
有機太陽電池はp、n型半導体がいずれも有機材料であり、p型有機半導体とn型有機半導体を接合したpn接合太陽電池である。このpn接合により形成した有機半導体活性層を正孔輸送層と電子輸送層ではさみ、その外側の一方を透明電極で、反対側を裏面電極で覆った構造となっている。正孔輸送層に透明電極を設けたものがノーマル型で、電子輸送層に設けたものが逆型である。このとき、両者で階段状のエネルギー準位は逆になっている。図1(a)は逆型構造の例である。裏面電極に非腐食性金属のAg(或いはAu)を用いることで、耐劣化性が高くなっている。
Science and Technology of Advanced Materialsにスイス、Empa, Swiss Federal Institute for Materials Science and TechnologyのMohammed Makhaらの発表した本論文Ternary semitransparent organic solar cells with a laminated top electrodeでは、著者らは半透明有機太陽電池を開発するにあたり、逆型を採用し、その構成は図1(b)に示すように、まずガラススライド/ITO電極上にTiO2膜を成膜し、次にドナーポリマー:PBDTTT-C(注1)とフラーレンアクセプター:PC70BM(注2)に近赤外に吸収のあるシアニン色素:Cy7-T(注3)を少量加えた三成分系有機活性層をラミネートし、その上にMoO3膜を成膜する。上部電極には金属薄膜を用いるのではなく、透光性を高めるためにAgメッシュ/PET電極を有機導電薄膜とともにラミネートし、上部電極とした。このようにして作製した半透明有機太陽電池は、可視領域でフラットな透過率を示し(図2)、平均可視透過率51%、光電変換効率3%を達成した。著者らの指摘によれば、今後克服すべき点としては、上部電極と有機半導体活性層の間にMoO3を蒸発法で中間層として成膜しているが、これもウエットプロセスに置き換える必要がある。また有機太陽電池の問題点である耐劣化性は本論文では述べられていないが恐らく今後解決すべき課題となるであろう。とは言え、著者らは平均可視透過率50%と、光電変換効率3%を達成し、半透明有機太陽電池の今後の開発には三成分系が重要な候補となり得ることを示した。
(注1) PBDTTT-C:poly[(4,8-bis-(2-ethylhexyloxy)-benzo(1,2-b:4,5-b’)dithiophene)-2,6-diyl-alt-(4-(2-ethylhexanoyl)-thieno[3,4-b]thiophene-)-2,6-diyl)]
(注2) PC70BM:[6, 6]-phenyl-C70-butyric acid methyl ester
(注3) Cy7-T:2-[2-[2-chloro-3-[2-(1-ethyl-1,3-dihydro-3,3-dimethyl-2H-indol-2-ylidene)ethylidene]-1-cyclohexen-1-yl]ethenyl]-1-ethyl-3,3-dimethyl-3H-indolium (OC-6-11-∆)-tris[3,4,5,6-tetrachloro-1,2-benzenediolato(2-)-κO1, κO2]phosphate(1-)
論文情報
- 著者
- Mohammed Makha, Paolo Testa, Surendra Babu Anantharaman, Jakob Heier, Sandra Jenatsch, Nicolas Leclaire, Jean-Nicolas Tisserant, Anna C. Véron, Lei Wang, Frank Nüesch & Roland Hany
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.18(2017)68.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2016.1261602