ナノインプリントリソグラフィー法を用いたシリコンナノワイヤーデュアルゲートトランジスターセンサー

検出特性の改良でバイオ/化学センサー応用に多大の前進

2017.02.23掲載
ARTICLE

Published : 2017.01.06 / DOI : 10.1080/14686996.2016.1253409

電界効果トランジスターセンサーはゲートを認識、検出場としており、ゲート絶縁膜上に固定されたプローブ分子に検出対象物質を吸着させ、プローブ分子と吸着対象物質の間の相互作用により検出対象物質の電荷を検出するデバイスである。抗体や糖鎖でゲート絶縁膜表面を分子修飾することにより多様な条件下で電荷を持つ生体関連物質の認識、検出が可能になることからバイオセンサーとしての利用が広がりつつある。

近年、成熟化社会に対応して、バイオセンサーの必要性はますます高まり、種々のバイオセンサー、バイオチップが世界中で開発されている。その中で迅速無標識検出、極小サイズ、可搬性といった点から電界効果トランジスター(FETs)による無標識バイオセンサーが特に注目を集めている。高性能、高信頼性のFETsセンサーの開発に当たっては感度の向上と同時に安定性の確保が欠かせない要件となるが、感度と安定性は相互にトレードオフの関係に有り、一方を向上させれば、他方が低下し、結局のところシグナル対ノイズ比(S/N比)においては得るところが無いというジレンマをかかえる。より高いS/N比を得るために上部と下部に非対称な構造を持つ二重ゲート電界効果トランジスター(DG FETs)が開発されたが、実用化に向かって更なる改善が必要とされている。そういった中で、シリコンナノワイヤーを用いた電界効果トランジスター(SiNW FETs)が究極の高感度、高選択性、サイズ極小化バイオセンサーを可能にすると注目を集めているものの、素子製造の困難さの故にSiNW FETsセンサーが十分に実現されているとは言い難い。SiNW FETsの作製にあたってはVLS、PECVD、自己集積法などのいわゆるボトムアップ型の製作法では必要な形状に正しくSiNWを配置するのは難しく、一方、トップダウン型でも電子ビームないし集束イオンリソグラフィーや深紫外光リソグラフィーは有効な手段ではあるけれども生産性やコストの点に難が有る。その点ナノインプリント法はモールドのナノ形状をレジストに圧着、転写するという簡単なリソグラフィーなので、トップダウン法の生産性、コストなどの問題点を克服できる。

Science and Technology of Advanced Materialsに韓国、Kwangwoon University(光云大学校)のCheol-Min Limらが発表した本論文Improved sensing characteristics of dual-gate transistor sensor using silicon nano wire arrays defined by nano imprint lithographyでは、著者らは、インプリント法により線幅148nm、高さ121nmのサイズで、~4本/μmのSiNW配列を持つSiNW FETsをpHセンサーと組み合わせたSiNW pHセンサーの作製を報告し、その性能を在来型のプレーナータイプのデュアルゲートトランジスター(planar DG FETs)を用いた場合と比較すると、格段に性能が向上することを示している。示されたpHセンサーとしての動作性能は、シングルゲートモードで、動作させると両者には大きな差はなく、いずれも感度は~57mV/pHであり、pH感度に対するドリフト安定性は~3%であるが、デュアルゲートモードで動作させると感度はシングルモード動作に対して1桁以上向上し、SiNW pH センサーは~980mV/pHとなり、planar pH センサーの~440mV/pHを圧倒し、しかも安定性でも前者は0.8%で後者の1.8%よりはるかに優れる。このようにSiNW DG FETsはセンサー表面の電位変化を検出するための非常に優れた素子であり、単にpHセンサーにとどまらず、種々のバイオ/化学センサーとしての展開が期待できる。

今後、SiNW DG FETsセンサーは、基質ー酵素反応、核酸ハイブリッド形成、抗源ー抗体反応のような種々の生物学的な現象の無標識センサーとして応用開発され、その作製において、ナノインプリント法が信頼性が高く、生産性、コストといった面でも優れることから採用されることになろう。

図1. ナノインプリント法で作製したSiNW DG FETsセンサー (a) FETsをデュアルゲートモードで動作させた概念図 (b) SOIウエファー上にナノインプリント法で作製したSiNW列のSEMイメージ (c) プレーナーDG FETsとSiNW DG FETsセンサーの広範囲のpH変化(3-10)に対応した応答電圧の変化VR

論文情報

著者
Cheol-Min Lim, In-Kyu Lee, Ki Joong Lee, Young Kyoung Oh, Yong-Beom Shin & Won-Ju Cho
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.18(2017)17.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2016.1253409