ソフトエレクトロニクスには機能のブレンド

アルキルπ液体の混合で必要な機能を均質に組み合わせる

2025.06.19掲載
ARTICLE

Published : 2025.6.11 / DOI : 10.1080/14686996.2025.2515007

 

 図の説明:赤,青,緑の蛍光を発するアルキルπ液体を混合するだけで,望みの蛍光色をムラなく実現できる.

 折りたたんだり引き延ばしたりできる半導体や電極を使ったソフトエレクトロニクスと呼ばれる新興のテクノロジー技術は,ファッション・衣服類,ヘルスケア,ロボット技術に及ぶ広範な分野での活用が期待されている.今回,そうした目的に用いる材料機能を精密かつ簡便に実現する方法が,物質・材料研究機構(NIMS)の研究者らにより開発された.この成果はScience and Technology of Advanced Materials(STAM)に発表された.

 ソフトエレクトロニクスの実現において重要な役目を果たす高機能性の分子として,嵩高く柔軟なアルキル鎖を置換基にもつ芳香環化合物が注目されている.こうした化合物は常温で液体であり,芳香環がπ(パイ)電子を持つので,アルキルπ液体と呼ばれる.アルキルπ液体は分子ごとに特有の蛍光を発するなど高機能であるが,実際にこれらを使おうとすると,機能の精密な制御が必要になる.実はこれは簡単ではない.今回の論文の著者である中西グループリーダーは言う:「通常,こうした目的には2つの方法が採られます.一つ目は,少量の別の固体を溶かし込むドーピング法ですが,溶解度が低い場合が多く,必要な量が溶けず望みの性質が得られなかったり,不均一な状態となり,機能の信頼性が損なわれます.二つ目の方法は,個々の液体分子を設計し,合成する方法ですが,合成に手間と時間がかかる上に,合成してみて初めて成否がわかるという大きな問題がありました.」

 今回,NIMSの研究者らは,従来にない新しい方法で機能の精密制御を成し遂げられることを発見し,蛍光色を例にしてそれを実証した.新しい方法というのはこうだ:赤,青,緑という光の三原色の蛍光をそれぞれ発するアルキルπ液体を合成し,それらを均一に混ぜ合わせることにより,混合の割合を変えるだけで望みの色の蛍光を得ることができた.単純にも思えるが,3種の分子の設計と混ぜ合わせた液体が本当に(分子レベルで)混ざり合っているかの確認に多大な労力が払われた.原理の実証という研究の宿命である.「液体の混合を介した“機能の混合”はこれまでに提案されたことがないのですが,本研究によって均質な様々な蛍光色を制御可能で,低揮発性のインク状液体を得ることができました.こうしてできた液体を使うと,塗布,浸漬,文筆,染筆,挟み込み,流路通流など様々方法で必要なところに望んだ色の蛍光性を付与できます.」(中西グループリーダー)

 本研究は,高機能なアルキルπ液体の機能の精密制御に新しい展開をもたらすもので,光伝導性,ガス検出,環境発電など他の機能の制御への展開が期待される.

論文情報

著者
Zhenfeng Guo, Chengjun Pan, Akira Shinohara & Takashi Nakanishi
引用
Sci. Technol. Adv. Mater. Vol. 26 (2025) 2515007
本誌リンク
https://doi.org/10.1080/14686996.2025.2515007