反応性種結晶を使い分けて、ぺロブスカイト型セラミックスの優先配向方位を設計する

2015.06.08掲載
INVITED ARTICLE

Published : 2015.06.04 / DOI : 10.1088/1468-6996/16/3/035008

Texture design for microwave dielectric (Ca0.7Nd0.3)0.87TiO3 ceramics through reactive-templated grain growth

ペロブスカイト型酸化物ABO3は,酸素配位数の異なるAB金属イオンの組み合わせにより様々な物性を発現する「機能の宝庫」である.結晶構造は(擬)等方的でありながら,わずかなイオン位置の移動により,圧電性,強誘電性などの異方的機能が顕れる.単結晶より組成自由度の大きなセラミックスで,結晶方位を揃えることにより高い性能を引き出す,粒子配向プロセスの研究が注目されている.

Science and Technology of Advanced Materialsに発表された谷 俊彦(豊田中央研究所・豊田工業大学)と竹内 嗣人(豊田中央研究所)による本論文「Texture design for microwave dielectric (Ca0.7Nd0.3)0.87TiO3 ceramics through reactive-templated grain growth」は,TiO6八面体ブロックの積層方向が異なる2種類の層状ぺロブスカイト型化合物を反応性種結晶(Reactive template)として用いることによる,同一組成で異なる優先結晶配向方位を持つAサイト欠損ぺロブスカイト型(Ca0.7Nd0.3)0.87TiO3マイクロ波誘電セラミックスのトポケミカル反応設計について論じている.

Ruddlesden-Popper型層状ペロブスカイト相Ca3Ti2O7とニオブ酸ストロンチウム型層状ペロブスカイト相Nd2Ti2O7は,頂点共有TiO6八面体の結合が途切れる層間(interlayer)に垂直な方向が,それぞれ擬立方ペロブスカイト単位格子のとに相当する.従って,液相中で合成した,層間が発達面となる板状粒子に組成補完原料(前者はNdおよびTi源,後者はCaおよびTi源)を混合し,配向成形後に焼成すれば,TiO6八面体ブロックの方位を継承するトポケミカル反応と粒成長により,前者からは,後者からはが一軸配向した,同組成のセラミックスが生成する(図1,2参照).

ペロブスカイト型酸化物は,一般に擬立方{100}面の結晶成長速度が遅く,成長端面となる傾向にある.界面エネルギー最小を求める自己組織化の結果,配向軸に平行な焼結体断面には,配向セラミックスでは煉瓦塀状の,配向セラミックスではこれと粒界が45°傾いた「谷積み」石垣状の,特異な微組織が出現する.このため,配向セラミックスでは粒界の多くが配向軸に垂直または平行となり,同粒径の無配向セラミックスと比較して電磁波の散乱が抑制され,3割近く高いマイクロ波誘電品質係数を示した.

反応性種結晶粒成長(RTGG)法により,多結晶内粒子の優先配向方位が制御できることは知られているが,本論文はそれに加えて自己組織化との組み合わせによる粒界方位の設計可能性をも示している.圧電・強誘電性関連性能の向上に有効な粒子(結晶)配向だけでなく,輸送特性のように界面が鍵となる材料機能を向上させる粒界配向への展開が期待される.

図1.(100)型層状ぺロブスカイト型Ca3Ti2O7反応性種結晶とAサイト欠損ぺロブスカイト(Ca0.7Nd0.3)0.87TiO3相の結晶構造. TiO6八面体ブロックの方位を継承するトポケミカル反応により,種結晶の層間に垂直な方向に擬立方軸が配向した多結晶が生成する.Source: Sci. Technol. Adv. Mater. Vol. 16 (2015) p. 035008, Fig. 1(a).
図2.(110)型層状ぺロブスカイト型Nd2Ti2O7反応性種結晶とAサイト欠損ぺロブスカイト(Ca0.7Nd0.3)0.87TiO3相の結晶構造. TiO6八面体ブロックの方位を継承するトポケミカル反応により,種結晶の層間に垂直な方向に擬立方軸が配向した多結晶が生成する.Source: Sci. Technol. Adv. Mater. Vol. 16 (2015) p. 035008, Fig. 1(b).
  • 論文照会先:谷 俊彦(豊田中央研究所・豊田工業大学), 竹内 嗣人(豊田中央研究所, t_takeuchi@toyota-ti.ac.jp

論文情報

著者
谷 俊彦, 竹内 嗣人
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.16(2015)035008.
本誌リンク
http://doi.org/10.1088/1468-6996/16/3/035008