機械学習で、所望の機械特性を持つアルミニウム合金を得るための合金組成、熱処理プロセスの組み合わせを予測
Published : 2020.07.29 / DOI : 10.1080/14686996.2020.1791676
マテリアルズインフォマティクス手法で、アルミニウム合金の熱処理および合金組成と、機械特性との間の相関関係を抽出し、得られた相関関係をもとに目的とする特性を得るための因子を導き出す。
アルミニウムは軽量、高熱伝導度、易加工性といった特徴があるが、柔らかいために傷がつき易く、強度も鉄に比べると劣るという弱点がある。マグネシウム、マンガン、シリコン、亜鉛、銅などを加えて合金とし、アルミニウムの特性を活かしつつ強度を高めたアルミニウム合金が軽量、省エネ材料として広範に使用されている。合金組成、製造プロセスの組み合わせが合金の用途に合わせた特性を決めている。例えば、アルミニウム合金5000シリーズはアルミニウムにマグネシウムおよびいくつかの他元素を加えた合金で、強度、耐食性、溶接性が向上し、船舶、車両、化学プラントなどに使用される。6000シリーズはマグネシウムとシリコンを加えた合金で、強度、耐食性に優れ構造材に使われるが、溶接には弱いため、機械的接合が必要である。7000シリーズは亜鉛とマグネシウム、銅を加えていて、熱処理により、高い強度を得ることができ、航空機、スポーツ用部材、自転車フレームなどに用いられる。
目的とする特性を持つ合金を作成するための最適な合金組成と製造プロセスの組み合わせを実験的に決めることは多大の時間と費用を要し、容易でない。既存のデータベースを用い、材料の特性を予測するように機械学習モデルを訓練し、熱処理および合金組成に対する機械特性との間の相関関係を抽出することができれば、新しい合金の開発を進展させることができる。
Science and Technology of Advanced Materialsに、日本、物材機構、田村亮らと、トヨタ自動車、鷲尾宏太らとが共著発表した本論文 Materials informatics approach to understand aluminum alloys において、著者らは、アルミニウム合金5000, 6000, 7000系を取り上げ、アルミニウム合金のデータベースから相関関係を抽出するためのマテリアルズインフォマティクス手法の開発を報告している。
このマテリアルズインフォマティクス手法では、機械学習モデルと統計的手法「マルコフ連鎖モンテカルロ法」が採用されている。この手法では、十分なデータ量が与えられると、学習により、合金の機械特性と、合金組成および製造過程における熱処理プロセスの間の相関関係を理解し、所望の機械特性を持つ新しい合金を製造するのに必要な要件を予測する。また、異なる変数の間の相関関係を視覚的に把握することを可能にしている。その際、データベースのみがあればよく、専門家の知識などは必要としない。この手法の予測は、学習に利用する入力データセットの量が増せば、信頼性が高まる。
論文では5000, 6000, 7000系に対してこのマテリアルズインフォマティクス手法を適用し、例えば、高耐力,高応力,高伸長を示す5000系アルミニウム合金はマンガンおよびマグネシウム量を増やし、相対的にアルミニウム量を減らすことで作成できると予想されている。
合金を含め、新しい材料を開発するのにこのようなマテリアルズインフォマティクス手法は有効で、産業界からの要求にも答え得るものである、と著者らは述べている。
論文情報
- 著者
- Ryo Tamura, Makoto Watanabe, Hiroaki Mamiya, Kota Washio, Masao Yano, Katsunori Danno, Akira Kato and Tetsuya Shoji
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.21(2020)540.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2020.1791676