Progress in the materials science of silicene
Published : 2014.12.11 / DOI : 10.1088/1468-6996/15/6/064404
シリセン(silicene)はケイ素原子からなる一原子厚みの蜂の巣構造のシートで,その名前は構造と電子状態がグラフェンに類似することに由来する.図1に示すようにグラフェンとは若干異なり,原子は交互に鋸状に結合している.1994年発表の論文で理論的に取り上げられて以来,長らく仮想的な存在に留まっていたが,ここ数年の間に実験的な報告が相次いでおり,シリセン合成の進展が注目される二次元材料である.
Science and Technology of Advanced Materialsに発表された高村(山田)由起子とライナー・フリードライン(北陸先端科学技術大学院大学)による本レビュー論文「Progress in the materials science of silicene」は,金属的な基板上に形成されたシリセン,特に筆者らによる二ホウ化ジルコニウム薄膜上のシリセンの研究により得られた成果を中心に,シリセンの実験的な合成と評価,シリセンに特徴的な構造,結合状態,電子状態と仮想的なシリセンに期待される性質との相違,シリセンをナノエレクトロニクス材料として使用するために必要なブレークスルーについて論じている.
シリセンがグラフェンに比べてスピン軌道相互作用が比較的強く,トポロジカル絶縁体の研究対象としても注目されていることから,本レビュー論文は本誌のMaterials Science on Topological Insulators and Superconductors特集号に収録されている.20年近く合成不可能と思われていたシリセン合成に関し,本著者らによる最初の高品質シリセン合成の報告を含め,各種の合成法を紹介するとともに,シリセンを材料的観点から論じている点において注目に値する.シリセンは,その鋸状の結合を反映してグラフェンにはないバンド・ギャップ(数meV)があるなど,半導体材料としてその特性を制御しやすいことから,2次元物質の基礎研究として興味深いだけでなく,応用上のポテンシャルも高い.さらに著者らの高品質シリセンは,シリコン基板上の二ホウ化ジルコニウム・バッファー層の上に自己組織化的に形成され,厚みも1原子層で成長が止まる,基板全体を覆うなど,グラフェン応用の難点と無縁である.シリコン基板上に合成されるので,既存のシリコン・テクノロジーとの組み合わせが容易という意味でも,ムーアの法則を超える未来の電子材料として夢が大きく拡がっている.
- 論文照会先: Associate Prof. Yukiko Yamada-Takamura, School of Materials Science, Japan Advanced Institute of Science and Technology (JAIST)
- 海外メディア Technology News, “ Wonder Material Silicene Still Stands Just Out of Reach ” (ResearchSEA, 2015-1-12)
論文情報
- 著者
- Yukiko Yamada-Takamura and Rainer Friedlein
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.15(2014)064404.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1088/1468-6996/15/6/064404