カーボンナノチューブ足場材料を使った細胞膜操作

2014.07.08掲載
ARTICLE

Published : 2014.07.07 / DOI : 10.1088/1468-6996/15/4/045002

レーザー光を用いた細胞膜操作技術は,単一細胞レベルで遺伝子導入を行うために重要である.レーザー光の波長としては,生体組織を透過する近赤外光が有用であるが,近赤外領域の光を使って細胞膜に微小孔を形成する場合,多光子吸収を効率良く起こせるフェムト秒の超短パルスレーザーの使用が必須である.しかしフェムト秒レーザーは未だ高価で,特殊な光学系のため扱いが難しい.

Science and Technology of Advanced Materialsに発表された佐田貴生(九州大学),藤ヶ谷剛彦(九州大学)および中嶋直敏(九州大学,科学技術振興機構)による本論文:Manipulation of cell membrane using carbon nanotube scaffold as a photoresponsive stimuli generatorは,細胞足場として用いたカーボンナノチューブの近赤外光吸収特性及び光音響効果を利用し,ナノ秒のパルスレーザーを用いた細胞膜への微小孔形成を報告している(図1). 彼らはカーボンナノチューブ上の細胞(HeLa細胞)にレーザパルスを照射した時の細胞膜挙動を単一細胞の蛍光強度変化を測定することで詳細に解析し,どのようなメカニズムで細胞膜に微小孔が形成され,膜修復が起きるか議論している.また比較的安価なナノ秒パルスレーザーを用いて,生きた状態で細胞膜に微小孔を形成できることも示している.

本論文では,カーボンナノチューブの足場材料としての特性に光応答特性を組み合わせることで,再生医療や組織工学だけでなく遺伝子工学にも適用できる可能性があると結論づけている.

図1:カーボンナノチューブ上の細胞に近赤外光を照射した時のイメージ図と実際の蛍光顕微鏡画像.Source: Sci. Technol. Adv. Mater. Vol. 15 (2014) p. 045002, Fig. 4に,著者による作成図を加えている.

論文情報

著者
Takao Sada, Tsuyohiko Fujigaya and Naotoshi Nakashima
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.15(2014)045002.
本誌リンク
http://doi.org/10.1088/1468-6996/15/4/045002