コロイド状シリコン量子ドット — 合成と近紫外から近赤外までの発光制御

2014.01.18掲載
REVIEW ARTICLE

Published : 2014.01.17 / DOI : 10.1088/1468-6996/15/1/014207

シリコンをナノ構造にすると可視発光することが1990年に報告されるとシリコンナノ発光素子を用いたシリコンフォトニクス*への期待が世界を席巻した.今では,ナノ構造の制御により,近紫外-可視-近赤外の波長域において発光を連続的に選択できることが実験的に明らかにされ,さらに70%を超える量子効率で発光するナノ構造シリコンも合成されている.シリコンは元素半導体なので,素子に組み込む際に組成を制御する必要がなく,素子からの発光を電界で制御できる特長がある.また,シリコンは高クラーク数元素で資源は豊富にあり,生体・環境毒性もない.これらの優位性から多彩な分野での応用が期待されている.ところが,大きな期待に反して,シリコンナノ蛍光体は未だどのような些細な用途へも産業応用されていない.その理由は幾つかあるが,いずれも発光起源が未解明であることに帰結する.それゆえナノ構造シリコンが高効率発光するということは,今なおナノサイエンス史におけるミステリー事象の1つに挙げられている.

Science and Technology of Advanced Materialsに掲載されたBatu GhoshおよびNaoto Shirahataによるこのレビュー論文は,効率良く発光するシリコンナノ粒子に絞って合成方法と発光特性を解説している.本来,発光特性は,合成方法に依存せずナノ構造によってのみ規定されるべきであるが,シリコンナノ粒子においては,合成方法と表面化学に依存するという特殊性がある.著者等は,ナノ構造および発光特性を合成方法ごとに俯瞰し,発光色-ナノ構造の相関が,概ね500-550 nmの波長帯域の緑色を境として,単一の合成法ではカバーしきれない二つのスペクトル領域に分けられるという特徴を示している.シリコン発光素子の将来的な産業応用への挑戦を確かにするために,著者等は,従来不明瞭だった発光のメカニズムをより良く理解する目的で,この“緑色境界”について議論し,それぞれの発光メカニズムを要約している.著者等は,シリコンナノフォトニクスは依然揺籃期にあるとするものの,粒子サイズが揃い,表面化学特性の制御された高品質ナノシリコン粒子が得られることで,バイオ医療イメージ素子,光学増幅器,センサー,高効率LED,シリコン基レーザーといった新しいフォトニック構造が近い将来実現できると予言している.

図1.メタノール中に分散したシリコン量子ドット(上)と発光スペクトル(下).粒子サイズの減少に伴って発光スペクトルは近赤外から赤色へと徐々に変化している.粒子サイズの制御は合成した粒子を単に異なる温度でアニールすることで得ることができる.本図はJ. Phys. Chem. Cより転載(©2013, American Chemical Society)[1]

論文情報

著者
Batu Ghosh,Naoto Shirahata
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.15(2014)014207.
本誌リンク
http://doi.org/10.1088/1468-6996/15/1/014207