ヤモリの足裏を模倣した接着盤の脱着をひねりで制御

壊れやすい材料の搬送に使えるソフトロボット開発へ

2023.11.21掲載
ARTICLE

Published : 2023.11.09 / DOI : 10.1080/14686996.2023.2274818

韓国慶北大学校のMoon Kyu Kwak教授およびその共同研究者らは、ヤモリの足裏を模倣した接着盤にソフトアクチュエータを組み合わせることで、接着時には強い接着能を保ちながら、容易に脱着できる搬送ソフトロボットの開発に成功しました。物品の搬送や分別など、ロボット産業への利用が期待される研究成果は、2023年10月25日に「Science and Technology of Advanced Materials」誌に掲載されました。

多くの生物は粘着性の分泌液や爪などを使って、様々な場所に掴まったり、ひっついたりします。一方、ヤモリのように、分子と分子の間に働く「ファンデルワールス力」という弱い力を使った乾燥接着(dry adhesion)という仕組みを使う動物もいます。ヤモリの足指には直径〜5 µm、長さが〜100 µmの剛毛(seta)が無数に生えています。これは足指が地面と触れる面積を最大化させつつ、体重の負荷を分散させるのに有効です。さらに、剛毛の先端は細かく枝分かれした構造になっています。これは、枝状に別れた微細な剛毛の先端にある分子と接着表面上の分子の間に働くファンデルワールス力という引力を最大化させることで、くっつく力を増幅しています。

このヤモリの足裏にある階層的な微細構造を模倣した接着盤は乾燥状態で強い接着力を示すことから、ロボティクス分野への応用が期待されています。すでに、このヤモリの足裏の接着メカニズムを真似た接着盤をロボットのハンド部分に用いる応用研究も進められています。この接着盤は強力な接着力を発現しますが、一方で、引き剥がす際には強い力が必要となります。とりわけ、ガラス基板などの壊れやすい材料の脱着には向かないといった問題がありました。本論文の第一著者である Seung Hoon Yoo氏は「ヤモリの足裏を模倣した接着盤は、よくくっつくものの、簡単には剥がせないという問題を抱えていました。つまり、ヤモリの足裏モデルの接着盤をソフトロボットなどに利活用するためには、ロボットが対象物を持ち上げるだけではなく、同時に所望の位置で簡単に剥がせるようになることが必須でした」と述べています。

本論文の中で著者らは、先端に接着盤を備えた、ねじれながら収縮するチューブ状のソフトアクチュエータを開発しました。この機構により、接着盤がひねり上げられることで、簡単に接着面から剥がせるようになりました。
先端のマッシュルーム形状の接着盤は、シリコーンゴム(polydimethylsiloxane, PDMS)のエラストマーでできています。マッシュルーム状構造(図の写真を参照)の一個の大きさは、高さ20 µm、直径10 µmですが、その先端には厚さ1 µmおよび直径13 µmの微細構造が施されています。また、ひねりを加えるためのソフトアクチュエータは、3Dプリンタで加工したものです。ソフトアクチュエータには長さ方向に対して斜めの溝が設けられたチューブ状の構造をしており、減圧するとねじれながら収縮します。その際、ソフトアクチュエータ先端に固定した接着盤はひねりあげられる形となり、接着していたガラス板を傷つけることなく剥がすことができます。その結果、接着盤を剥がすのに、ひねりを加えない時には ~20 Ncm-2の力が必要だったのに対し、ひねりを加えることで~2 Ncm-2 と10分の1にまで減少しました。このことは、特に壊れやすい材料を取り扱う際には重要になります。実際、著者らは開発した搬送システムをロボットアームの先端に取り付け、壊れやすいガラスのディスクを指定された別の場所まで移動させることにも成功しています。

著者の一人、Sung Ho Lee教授は、「搬送ロボットは、モノを持ち上げ、任意の場所まで移動させ、配置する、という動作を繰り返し行っています。そこにヤモリの足裏を模倣した接着盤を用いたいというニーズは産業界に多くあります。今回の研究成果を産業分野に応用し、さらに進歩したモデルを開発するための研究を進めることで、産業界との学術界の架け橋になりたいと思っています」としています。

図の説明:ヤモリの足裏を模倣した接着盤を装着したロボット素子の構造と動作機構

論文情報

著者
Seung Hoon Yoo, Minsu Kim, Han Jun Park, Ga In Lee, Sung Ho Lee & Moon Kyu Kwak
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.24(2023)2274818.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2023.2274818