ゲームアルゴリズムでよりたやすく材料設計
Published : 2017.07.20 / DOI : 10.1080/14686996.2017.1344083
コンピューター「碁」で威力を発揮したモンテカルロ・ツリーサーチを用いた新しい材料設計アルゴリズム;ツリーサーチ材料設計(Materials Design using Tree Search: MDTS)が最適の原子構造を設計する有効な手段として開発された。
最近の材料科学および材料エンジニアリングにおいて、コンピューターを使って行う複雑な材料設計が急速に発展しつつあり、中心的なトピックになっている。ある特定の性能条件を満たすことのできる複雑な材料構造を設計するということは、可能性のある候補群の中から最適な構造を見つけ出すということに定式化でき、ブラックボックス的なコンビナトリアル手法と呼ばれる。しかし、この方法は多くの実験の労力を要し、容易ではない。実験による材料設計は、一つの実験結果から次に行うべき実験の候補を選ぶという行為を反復し、最終的に最適な材料にたどり着くことになるが、材料設計プロセスを加速させるために実験の数を可能な限り減らすためのアルゴリズムの開発が進みつつある。最近、ベイジアンラーニング(Bayesian learning)を用いたベイズ最適化法が材料設計において有望な候補を選んでゆくのに効果的な方法であることが示された。ただ、このベイズ最適化法はスケーラビリティーに難があり、系が大きくなると計算時間も膨大になってしまう。遺伝的アルゴリズムのような進化型アルゴリズムはスケーラビリティはあるけれど多くのパラメーターがあり、それらを調整する必要がある。材料の設計においては前もって得られているデータは多くなく、多くのパラメーターの設定は困難である。
Science and Technology of Advanced Materialsに、日本、物材機構のThaer M. Diebらおよび東京大学、理研の研究者らが共著発表した本論文、MDTS: automatic complex design using Monte Carlo tree searchでは、著者らは、コンピューター「碁」ゲームでベストな着手を決めるのに用いられたモンテカルロ・ツリーサーチと呼ばれるアルゴリズムを用いて、材料設計で最適な原子位置を決めるためのMDTSという新しく開発した材料設計ツールを報告している。著者らはMDTSを用いて二つのシリコンリードを繋ぐSi-Ge合金インターフェイスの構造を、目的とする性能条件としては最小または最大熱伝導度を持つ構造と設定して材料設計を行った。最小熱伝導度は、例えば、産業プロセスの廃熱を再度電気エネルギーとして回収する熱電材料に必要な性能であり、他方、最大熱伝導度はコンピューターのCPUの放熱基板材料として必要な性能である。著者らは、ある一定の原子数を持つSi-Ge合金に対し、MDTSアルゴリズムを用い、全ての可能な原子サイトにシリコンまたはゲルマニュウムを置き、学習を繰り返すことで、熱伝導度をより目的値に近づけるよう合金の構造を決めていった。その結果を、ベイズ最適化法を用いた場合とトータルの計算時間で比較し、MDTSがベイズ最適化法と同等以上の能力を持っているとしている。MDTSはデータから学習してゆく能力が非常に優れているということである。
著者らは、MDTSは材料科学者が彼ら自身の問題に容易に展開してゆくことのできるツールで、今後標準的に使われるようになる可能性を秘めている、としている。また、MDTSはオープンソースとして公開されている。
論文情報
- 著者
- Thaer M. Dieb, Shenghong Ju, Kazuki Yoshizoe, Zhufeng Hou, Junichiro Shiomi & Koji Tsuda
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.18(2017)498.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1080/14686996.2017.1344083