固体イオニクス:マイケル・ファラデーからグリーンエネルギーまで — ヨーロッパの果たしてきた役割 —

2013.08.14掲載
REVIEW ARTICLE

Published : 2013.08.13 / DOI : 10.1088/1468-6996/14/4/043502

著者: Klaus Funke

固体イオニクスは,イオン移動現象とそのデバイス応用を対象とする基礎と応用を含む科学・技術分野と定義される.

固体イオニクスの歴史は,ファラデー(Michael Faraday)によるAg2SとPbF2におけるイオン伝導性の発見に始まる.その後19世紀から20世紀にかけて,輸送の線形則を始め多くの固体イオニクスの基礎となる学理が成立した.意外に知られていないが,熱力学の第三法則で知られるネルンスト(Walther Nernst)が,起電力の理論式(Nernst’s equation)を導出するとともに,ジルコニアを用いたネルンストランプ(Nernst Glower)という最初の固体イオニクスの具体的応用を提案している.

新しい物質の発見が新しい科学を先導する,という科学史の通則のとおり,固体イオニクスの大きな学理の展開は新物質発見と一致している.例えば,固体でありながら液体的性質が共存する副格子溶解により異常なイオン伝導特性が発現するα-AgIの発見(1914年)が良い例である.またカルコゲン化合物や安定化ジルコニアなどのイオン伝導性を説明する方法として,点欠陥という概念がフレンケル(Yakov Il’ich Frenkel),ショットキー(Walter Schottky),ワーグナー(Carl Wagner)らによって創り上げられた.20世紀以降も現在に至るまでに多くの新しい固体電解質や電極材料であるイオン/電子混合伝導体の発見が続いており,これらの新物質発見が,それを用いた高度な固体電池システムである燃料電池や1次/2次電池,化学センサ,Memristorや原子スイッチなどの電子デバイス開発を先導している.

このレビュー論文には,500編を超える多くの参考文献を参照しながら,ヨーロッパを中心として興った固体イオニクスについて歴史的経緯とその考え方の概要がまとめられている.加えて,単なる歴史的事実の記録に留まらず,固体イオニクスという材料科学,物理学,化学にわたる広汎な理解の方法について,その基礎を構成する物理化学的視点でまとめた優れた解説書としての側面も持っている.

効率的に「イオンにエネルギを貯蔵・変換(蓄電池・キャパシタ)する」という電気化学応用がこれまでの固体イオニクスの応用の中心であったが,「イオンに情報を蓄える」情報デバイスへの応用が大きな広がりを持って急速に展開している現在,本論文は,今後の革新的デバイスを考えるうえで必要な固体イオニクスの基礎概念と諸特性を平易に解説したものとして永く引用される歴史的論文である.

[1] その特許から得た資金の一部により,当時のゲッチンゲン大学の研究室を拡張した.その後のベルリン大学講堂における熱定理のインスピレーションへと繋がったともいえる.

参考文献: Solid-State Ionics in the 21st Century: Current Status and Future Prospects, by Sangtae Kim, Shu Yamaguchi and James A. Elliott: MRS Bulletin Vol. 34 (2009).

材料科学の展開スキーム:1—理想的に配列した結晶;2—点欠陥のある結晶;3a—構造不整を伴う結晶;3b—イオン伝導性ガラス;3c—有機電解質材料;3d—ナノ複合材料,薄膜などのナノシステム

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著者
Klaus Funke
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.14(2013)043502.
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http://doi.org/10.1088/1468-6996/14/4/043502