ナノ構造を持つ、初のバルク金属

2013.03.12掲載
ARTICLE

Published : 2013.03.11 / DOI : 10.1088/1468-6996/14/1/014202

構造材料と言えば,読者はなにをイメージするであろうか.橋梁やビルに用いられる大型部材?もちろん正解である.ミリサイズ,あるいはミクロンサイズで用いられるものもあるが,代表的な構造材料といえば俗にバルク材と呼ばれる大きなサイズで使われていると考えるのは至極当然である.ところで,読者にはこのバルク材料中の組織がナノメートルレベルで制御されているものもある,と言われてもにわかには想像がつかないのでは無いだろうか.

本ショートレビュー(doi:10.1088/1468-6996/14/1/014202)は,まさにこのナノメートルレベルで組織制御された高強度鉄鋼材料について書かれている.具体的には,図1に示されるようにベイナイトという相を20~50nmの薄さに制御したベイナイト鋼であり,この材料は図2に示すように,すでに実用化されている.

図1

このレビューは,7章で構成されている.1章では,ナノ構造を持つことがなぜ強化に役立つのか,金属材料の一般的な強化機構も含めて簡単に説明されている.2章では,本レビューにおける”nano-structure”の定義,3章では”nano-structured bulk material”を設計開発するための必要条件について書かれている.例えば,1kgあたりの価格をペットボトルの水と同じくらいに抑えなくてはならないと書かれているが,構造材料の実用化がいかに困難かを示唆しており,非常に興味深い.

さて,ナノオーダーでの組織制御を“安価に”バルク材に施すためには,いったいどのような魔法が必要なのだろう.手法は至って簡単である.200℃で,15日間の等温熱処理を材料に施すだけでOKである.これで先述した厚さ20~40nmの板状ベイナイトが層状に析出する組織が得られるのだが,この熱処理法を見出すに至った学問的バックグラウンドや,ベイナイト変態に関する新しい知見,特に2010年以降に報告された知見について第4章,5章で紹介されている.

図2

しかしながら,完全無欠な材料はなかなか存在しない.ベイナイト鋼にも溶接性が悪いという欠点があり,この原因と,今後取り組むべき課題とが第6章に述べられている.第7章はまとめである.

このように,本論文はベイナイト変態の特性をうまく活用して得られたナノ構造材料について,簡潔にまとめられたレビューである.実はこのベイナイト変態に関して,拡散変態(diffusion transformation)であるか無拡散変態(displacive transformation)であるか長年議論が続けられており,未だ決着がついていない.本文中には,筆者が主張する無拡散変態を支持する実験結果や,その結果を報告している論文の紹介もなされている.他にも多数の興味深い論文が引用されており,材料学に携わっている多くの研究者にとって参考になるレビューである.是非一度眼を通していただきたい.

図3

論文情報

著者
H K D H Bhadeshia
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.14(2013)014202.
本誌リンク
http://doi.org/10.1088/1468-6996/14/1/014202