アナフィラキシー反応を引き起こさない薬剤被覆ポリマー

新規ポリマー修飾リポソームによる薬剤カプセルの開発

2022.12.13掲載
FOCUS ISSUE ARTICLE

Published : 2022.12.08 / DOI : 10.1080/14686996.2022.2146466

Science and Technology of Advanced Materialsに掲載された、産総研(AIST)、寺村裕治らによる共著論文 Impact of spontaneous liposome modification with phospholipid polymer-lipid conjugates on protection interactions は、ワクチンや薬剤の使用において、全身性のアレルギー症状があらわれる危険なアナフィラキシー反応のリスクを低減させる生体適合性ポリマーの開発を報告している。また、その長期安定性、生体適合性についての予備的な試験結果も報告している。

ポリエチレングリコール(PEG)は、薬剤キャリアのリポソームやワクチンなどの生体適合性を高めるための被覆ポリマーとして主に使われており、柔軟な水溶性の合成ポリマーで、COVID-19ワクチンのキャリアカプセルであるリポソームの修飾剤としても使われている。しかし、患者によってはこのPEGに対して免疫系がアレルギー反応を起こし、アナフィラキシー反応を引き起こすことが報告されている。アナフィラキシー反応は、アレルギー反応でも特に重篤な症状で、皮膚、呼吸器、消化器、循環器、神経系などの複数の臓器に全身性のアレルギー症状が現れ、最悪の場合、血圧低下、意識障害により、死にいたる場合もある。このため、生体適合性のあるPEG代替ポリマーの開発が求められていた。

研究チームによって、新しく開発されたのが 2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリンポリマー(poly(MPC))と脂質(lipid)の結合体(PMPC-lipids)である。この物質は、水中でリポソームと混合すると自発的にリポソームと結合する。このPMPC-lipidsはPEGに反応して生成された抗体には認識されない。さらに、アレルギー反応により引き起こされるその他のどのような抗体をも刺激しないということが試験段階では示されている。したがって、このPMPC-lipidsで被覆したワクチンや薬剤内包リポソームは、アナフィラキシー反応を引き起こさず、さらに、免疫系により排除されないので、体内により長い時間とどまることができるようになると考えられている。

AISTの細胞分子工学研究部門、寺村裕治氏は「新規開発のPMPC-lipidsは、リポソーム同士の凝集、また、その効果に干渉しかねない血中のタンパク質の吸着を妨げることを我々は見出した。」と述べている。事実、PMPC-lipids修飾リポソームは、リン酸緩衝食塩水保存液中で、実際の医療応用において十分な期間と言える14日間安定に保つことが出来ている。さらに「我々の開発したPMPC-lipidsは、抗PEG抗体に認識されず、PEGに反応してアナフィラキシー反応を引き起こす患者にもワクチンを適切に投与することが可能になる」と結論づけている。

今後、このポリマーは、種々のワクチンに応用するためにその安全性を徹底的に調べなくてはならない。ヒトへの治験に進む前に、 研究チームは、開発の鍵となる動物モデルにおける免疫反応を調べようとしている。

動物およびヒトに対する治験結果が良好であれば、この技術は、ワクチンのみならず薬剤を送り届ける手段を新たに提供することになる。リポソームのような薬剤送達系は、時に免疫反応や生化学反応によって、薬剤が分解されるのを防ぐ役割が求められる。このリポソームによる内包によって初めて薬剤は目的とする疾患組織に活性を保って送達されることになる。

図の説明:左図で示すワクチンを内包したリポソームは、通常、ポリエチレングリコール(PEG)で修飾されている。しかし、PEGは患者によってアレルギー反応を引き起こすことがある。右図に示す新規開発ポリマーは、アレルギー反応を引き起こさないPEGを代替する修飾剤で、ワクチンの滞留時間を長くする効果が期待される。

論文情報

著者
Haruna Suzuki, Anna Adler, Tianwei Huang, Akiko Kuramochi, Yoshiro Ohba, Yuya Sato, Naoko Nakamura, Vivek Anand Manivel, Kristina Nilsson-Ekdahl, Bo Nilsson, Kazuhiko Ishihara and Yuji Teramura
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.23(2022)845.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2022.2146466