ガラス窓の機能化による地球温暖化への取り組み

国際共同研究を通じた高遮熱性窓ガラスのためのコーティング材料の開発

2022.08.31掲載
FOCUS ISSUE ARTICLE

Published : 2022.08.30 / DOI : 10.1080/14686996.2022.2105659

窓ガラスの断熱特性を改善するためのコーティング材料が日仏共同研究によって開発されました。その 新しいコーティング材料は、金属ナノクラスターを含むナノコンポジット材料であり、可視光の透過率を損なうことなく、近赤外線 (NIR) と紫外線 (UV) の大半を遮断します。その研究成果が、 科学雑誌Science and Technology of Advanced Materials に掲載されました。

フランス国立科学研究センター(CNRS)の研究ディレクターである固体化学者の Fabien Grasset氏は、「事業化にはまだ長い道のりがありますが、以前の研究と比較して、我々が開発したコーティング材料を使う事で、UV および NIR の遮断特性を大幅に改善できることが示されました」と語っています。

「建物で消費されるエネルギーは世界の全エネルギー消費の大部分を占めています」さらにGrasset氏は説明します。「一般の建物では室温を快適なレベルに保つために冷房や暖房が使われ、それによって非常に多くのエネルギーが消費されています。」科学者たちは、窓ガラスからの熱の侵入、すなわちNIRの侵入を遮断できるコーティング材料を探し求めています。それが出来れば、建物や車で使われる冷房のためのエネルギー消費を抑えることができます。 ただし、可視光が取り込めるようにする必要があり、さらに 理想的には、有害な紫外線もブロックすることが望まれます。

この目的のために、Grasset氏らの日仏国際共同研究チームは、ニオブやタンタルと塩化物イオンや臭化物イオンを含むナノクラスターを含むナノコンポジットの作製とその評価を進めてきました。

そして、NIRとUVを遮断し、可視光を透過するという性能において、塩化物系ナノクラスターが最高の性能を示すことを見出したのです。ナノクラスターを含むコンポジット材料によるNIRやUVの遮断では、コーティング材料に含まれるナノクラスターの濃度や分散状態、酸化状態が性能を左右します。開発チームは、それらを最適化し、材料性能を高めました。

インジウム・錫酸化物膜が形成されたガラスの上に、ポリビニルピロリドンにナノクラスターを分散したコーティング材料を塗布します。この組み合わせによって、可視光を透過し、NIRとUVを遮断する特性を高めることが出来ました。Grasset氏は「こうして開発したコーティング材料は、エネルギー問題で最も問題となる高い波長範囲のNIRを遮断することが出来ます」と語ります。

「私たちの日仏共同研究には長い歴史があります。私たちは、異なる文化や異なる思考を持つ仲間が共に取り組むことに意義があることを確信しています。日仏共同研究の枠組みであるLINKプロジェクトの推進によって、そのさらに確信が強いものとなりました。我々は地球温暖化対策技術の進歩に向けて、引き続き全力で取り組みます。」と、Grasset氏は結びました。

図の説明:
ポリビニルピロリドンにナノクラスターを分散したコート剤を、ITO膜を付けたガラスにコーティングすることによって、可視光を透過しつつ、NIRとUVを遮断する。

論文情報

著者
Clément Lebastard, Maxence Wilmet, Stéphane Cordie, Clothilde Comby-Zerbino, Luke MacAleese, Philippe Dugourd, Naoki Ohashi, Tetsuo Uchikoshi, and Fabien Grasset
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.23(2022)446.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2022.2105659