セルロースフィルムを「切り紙」ハイドロゲルに

膨潤前レーザー加工がハイドロゲルの新しい可能性を拓く

2024.04.25掲載
ARTICLE

Published : 2024.4.2 / DOI : 10.1080/14686996.2024.2331959

東京農工大学の研究者らが、ハイドロゲルとして知られる柔らかくて伸張性のある材料に、精巧な構造を作り込む新しい手法を開発した。膨潤前の薄膜にパターンを切り込むことにより、膨潤後に複雑なキリガミ ハイドロゲル構造を形成させる。この研究は、「キリガミ ハイドロゲル」と呼ばれる新しい領域を拡大するものだ。この成果は、Science and Technology of Advanced Materials (STAM)誌に掲載された。

親水性の分子ネットワークを持つハイドロゲルは、大量の水を含んだ状態(膨潤状態)にある。中川大輔氏と花崎逸雄氏は、膨潤前の,セルロース(植物細胞壁の大部分をなす天然素材)のナノファイバーで構成された乾燥フィルムにあらかじめ設計したパターンをレーザーで刻み込んだ。加工したフィルムに水を加えて膨潤させると、長手方向に引き伸ばしたときに横幅も広がる「オークセティック」と呼ばれる特性を示す。

「“切り紙”は、元々は文字通り“紙を切ることで作られたデザイン”のことだったので、一般的には薄いシートが用いられます。一方、私たちが開発した二次元のオークセティックな特性は、シート構造が膨潤し、厚みが充分になった三次元的な状態で現れます。また、一定の含水状態で保管するより、使用前は乾燥状態で保存するほうが便利でしょう。」と花崎氏は言う。「このオークセティック機構は引張と圧縮の変形を多数回繰り返しても維持されます。これは、しなやかな知的材料の設計において重要な要素となるでしょう。」

この適応性ハイドロゲルの応用例としては、たとえば,ロボット技術のソフトコンポーネントが考えられる。これにより、操作対象との相互作用が柔軟になる。やわらかいスイッチやセンサー部品にも応用できる可能性がある。また、ハイドロゲルは動きや成長に柔軟に適応できる材料として、組織工学、創傷被覆材、薬物送達システム(DDS)などの医療分野への応用も検討されている。今回、東京農工大学のチームが開発したキリガミ ハイドロゲルは、将来のハイドロゲル応用の選択肢を大幅に広げるものとなるだろう。 「設計した特性を維持しながら周囲環境への適応性を発揮することは、材料の多機能化にも有効です。」と花崎は締めくくった。

図の説明:ハイドロゲルのキリガミパターン(上)と乾燥状態から膨潤したハイドロゲル(下)

論文情報

著者
Daisuke Nakagawa & Itsuo Hanasaki
引用
Sci. Technol. Adv. Mater. Vol. 25 (2024) 2331959
本誌リンク
https://doi.org/10.1080/14686996.2024.2331959