X線回折パターンに力学物性の情報
Published : 2024.8.15 / DOI : 10.1080/14686996.2024.2388016
ポリプロピレンなどのポリマーは現代では身近に利用されている材料であり,コンピューターから車まで様々な製品で使われています.その汎用性ゆえ,開発された材料がどのような加工状況でどのような力学物性を示すかを知ることが重要です.ポリマーの化学組成は基本的な情報ですが,引っ張り強度や曲げ柔軟さといった力学的性質は化学組成だけでは決まらないため,できあがった材料に対する力学物性の測定が必要でした.これには時間も手間もかかります.今回,物質・材料研究機構(NIMS)の田村亮・永田賢二・中西尚志と化学系企業(旭化成、住友化学、三井化学、三菱ケミカル)の合同研究チームは,X線回折実験の結果に機械学習を適用することにより,ある種のポリマー材料の力学物性を精度良く予測できることを示しました.
X線回折の結果は回折角の関数としてX線強度が記録されるスペクトル様のものなので,これから機械学習の入力となる記述子を抽出する必要があります.研究チームは,このために「ベイズ推定に基づくスペクトル分解」を採用し,回折パターンから自動的に回折角,強度,ピーク幅などの記述子を抽出する方法を用いました.さらに,抽出した記述子の中から予測に重要な記述子を,次世代計算技術であるイジングマシンを利用することで,選定しました.こうして得られた記述子と力学物性を入力に,機械学習による予測を行ったところ,ある種のポリプロピレン材料について,予測対象とした9種の力学物性のうち,7種で良好な予測が可能でした.一方,破断時の延びを含む2種の予測は困難でした.これらの予測困難な力学物性は実際にもばらつきが大きな量であるという特徴がありました.
今回の研究により,非破壊で簡便に実施できるX線回折の実験結果から記述子を自動的に抽出して機械学習によって力学物性を予測できることが示されたので,材料開発における時間とコストの削減が見込まれます.一方で,力学物性の多くは,X線回折で観測できない大きさ、次元性のポリマー高次構造が深く関わると考えられてきたので,今回の発見はポリマーの基礎科学においても重要な足がかりとなり得るものといえます.
論文情報
- 著者
- Ryo Tamura, Kenji Nagata, Keitaro Sodeyama, Kensaku Nakamura, Toshiki Tokuhira, Satoshi Shibata, Kazuki Hammura, Hiroki Sugisawa, Masaya Kawamura, Teruki Tsurimoto, Masanobu Naito, Masahiko Demura & Takashi Nakanishi
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater. Vol. 25 (2024) 2388016
- 本誌リンク
- https://doi.org/10.1080/14686996.2024.2388016