ここまで進んでいるナノ物質の自己組織化(Self-assembly)

生物界の模倣こそが自己組織化による次世代ナノ物質の作成の鍵

2019.02.06掲載
REVIEW ARTICLE

Published : 2019.01.31 / DOI : 10.1080/14686996.2018.1553108

超分子のようなナノサイズの構造単位を組み上げて先進材料を開発してゆくという新しい研究概念「ナノアーキテクトニクス (Nanoarchitectonics)」の発展には材料科学、生物学、化学など各分野の共同研究が欠かせない。今、世の中の興味は、ITとかAIに代表されるサイバー技術に集中しているようにみえる。そのサイバー技術を支える半導体技術に使われているナノ構造はリソグラフィーなどのトップダウン法により作成されている。しかし、新たに社会的な要求が高まっているエネルギー貯蔵、化学センサー、さらには広範囲の生物応用分野の機能性材料の開発には、ボトムアップ型のナノ技術の進展、例えば、超分子のようなナノサイズの構造単位を自己組織化させて、システムの構築を行うこが必要になってきていて、共同研究としての材料ナノアーキテクトニクスへの研究資源の投資が求められている。

Science and Technology of Advanced Materialsに、日本,物質材料研究機構、有賀克彦らの発表したレビュー論文 Self-assembly as a key player for materials nanoarchitectonics は、材料ナノアーキテクトニクスにおける自己組織化研究の最近の進展を紹介している。著者らは、2008年に、同じくSTAM誌に Challenges and breakthroughs in resent research on self-assembly を発表し、自己組織化研究についての包括的なレビューを行っている。本稿は、その補完的な役割と共に2008年以降、特に最近数年の自己組織化にかかわる研究を紹介している。2章で自己組織化研究の最近の傾向を簡単に紹介し、続いて3章で、自己組織化システムの種々のトピックスを示し、4章で界面における自己組織化の最近の研究例を説明し、5章で今後の展望を示している。取り上げた実例は、構造体としては、分子機械、分子レセプター、分子プライヤー、分子ローター、ナノ粒子、ナノシート、ナノチューブなど35項目、機能性材料としては、表面増感ラマン分光、光電池、電荷輸送、励起エネルギー移動など16項目と多岐にわたる。

著者らは、材料ナノアーキテクトニクス研究の今後の進展の方向を見通すには、細胞とかタンパク質表面、さらにはマクロ分子界面といった生物システムを研究することが必要であるとしている。実際、生物界においては、例えば、脂質相や細胞骨格成分内で、自己組織化により当たり前に構造を作りあげている。したがって、生物構造体がどのように発生し、振る舞っているかを理解することがナノアーキテクトニクスの進展を助けることになる。生物界面材料を開発してゆくことにはある程度の進展は見られるけれど、現時点では高度化した自己組織化システムの構築はまだできていない。今後、ナノ材料において高度に発達した生物システムの特性を複製するには、材料科学、生物学、化学の分野の研究者の共同研究が欠かせない。 著者たちは、自己組織化ナノアーキテクトニクスにより機能性材料を創成する過程は、成分分子から生命体が発生してゆく過程と似ている。生命体が進化してくるのに10億年を越える年月を要しているが、ナノアーキテクトニクスが多くの期待されているゴールにたどり着くまでにはあと2~30年あれば可能であろう、としている。

図の説明:脂質やタンパク質の自己組織化を模式的に示す。(a) 脂質分子がラメラ、チューブ、小胞状構造を形成;図ではそれらの柔軟性、流動性を強調している。(b) タンパク質が硬く、結晶性(この場合は六方対称)の良いラメラ、らせん状チューブ、正20面体構造を形成。(c) SDS@2β-CDがタンパク質に似た方法で硬く、面内で菱面対称性を持つラメラ、らせん状チューブ、菱面対称12面体構造を自己組織化により形成。左端に示す分子模型で、SDSはアニオン界面活性剤;頂部にあるのは青と赤で示す -(SO4)- グループで、黄色で示すハイドロカーボンのしっぽを持つ。β-CDは七角形の糖質リング(緑はC、赤はO原子を示す)。Credit: Yang et. al. Nature Communications volume 8, Article number: 15856 (2017) https://www.nature.com/articles/ncomms15856/figures/1

論文情報

著者
Katsuhiko Ariga, Michihiro Nishikawa, Taizo Mori, Jun Takeya, Lok Kumar Shrestha & Jonathan P. Hill
引用
Sci. Technol. Adv. Mater.20(2019)51.
本誌リンク
http://doi.org/10.1080/14686996.2018.1553108