Micrometer-level naked-eye detection of caesium particulates in the solid state
Published : 2013.02.07 / DOI : 10.1088/1468-6996/14/1/015002
放射性セシウム除染の効率化につながる研究成果
東日本大震災にともなう福島第一原子力発電所事故により原子炉から多くの放射性物質が飛散し,福島県をはじめとする広い地域が汚染された.事故直後は放射性ヨウ素同位体であるヨウ素131が検出されたが半減期が約8日と短いため,徐々に減少し,現在は半減期が長い放射性セシウム同位体が主として検出されている.今後は,セシウム137(半減期約30年)による土壌,水質,海洋汚染が広範囲に及ぶと考えられる.そのため日本政府のみならずNGO団体が,放射性セシウムによる汚染状況の把握に務めている.その過程で,放射性物質が局所的に集積したホットスポットの存在が確認されてきた.従来の放射線測定器では汚染の分布を局所的に把握するのは難しいため,放射性物質,特にセシウムの分布状況を肉眼で確認できれば,除染作業の特段の効率化が期待できる.
森 泰蔵,ジョナサン ヒル,有賀 克彦(物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点)らは,ホスト-ゲスト化学を用いて,固体表面上に分布するセシウムイオンを緑色の蛍光により可視化する超分子材料を開発し,その成果を本稿で報告している.具体的には,フェノール誘導体にニトロベンゼンをエチレングリコール鎖で接続した超分子材料がセシウムイオン蛍光プローブとして作用する事を見いだした.セシウムイオン存在下では緑色,その他のアルカリ金属イオン存在下では青色の蛍光を示す.その蛍光機構として,エチレングリコール鎖がセシウムイオンを選択的に内包し,取り込まれたセシウムイオンがフェノール部位と静電的に相互作用することで緑色の蛍光を示すとしている.筆者らは,炭酸セシウムを含む土壌に,蛍光プローブのメタノール溶液を噴霧することにより炭酸セシウムを含む部分のみが緑色の蛍光を発することを確認している.また,炭酸セシウム水溶液に浸した植物の茎断面に蛍光プローブを溶かしたメタノールを噴霧することにより,セシウムを含む部分のみが緑色の蛍光を示すことも明らかにしている.
この蛍光プローブは固体や試料表面における放射性セシウムイオンの分布を既存の放射性物質を検出する方法よりも高い空間分解能で可視化できる可能性を有するため,除染の格段の効率化が期待できる.一方,放射性でないセシウムイオンを感知しうる事から,土壌や食品,生体中におけるセシウムイオンの挙動や,セシウムイオンの拡散,蓄積過程の解明に大きく貢献すると考えられる.
参考:物質・材料研究機構 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点プレスリリース
論文情報
- 著者
- Taizo Mori, Masaaki Akamatsu, Ken Okamoto, Masato Sumita, Yoshitaka Tateyama, Hideki Sakai, Jonathan P. Hill, Masahiko Abe and Katsuhiko Ariga
- 引用
- Sci. Technol. Adv. Mater.14(2013)015002.
- 本誌リンク
- http://doi.org/10.1088/1468-6996/14/1/015002